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せいいっぱいのだいすき


ねえねえ、おれのことばきいてくれますか?

舌ったらずの口調でそう言ったら柳さんは困ったように眉を下げて笑った。

「どうしたんだ、赤也。随分と甘えた口調じゃないか」

「これはもとからっすよ〜」

困った様子なのにこの人は相変わらず俺を甘やかすもんだから自然と頬が緩んだ。へらり。
今の俺の顔を部長なんかに見られたら「締まりなさすぎ」って言われそうだ。でも今はそんなことどうでもいい。俺の頭を撫でてくれる手が心地よくて、俺はそのまましゃがんで座ってる柳さんの膝に頭をすり着けた。「まるで猫のようだな」なんて言って柳さんが笑う。そんな気紛れじゃないっスと抗議すれば「俺に対してはな」なんて意味深な言葉が返ってきた。柳さんの意地悪。

「まあ、元からなら仕方がないな。で、どうした?俺は赤也の話を聞かなかったことはないと自負しているんだが」

先程の俺の言葉が気に掛かったのだろう。少し寂しそうな声色で柳さんは言った。
知っている。この人が俺の話を一字一句聞き逃さずに聞いてくれていること。どんなに内容の無い話でも耳を傾けてくれていることを、俺は知っている。
そうじゃなくて、そうじゃないんだ。俺が言いたいのはそうじゃなくて。

「やなぎさんー…」

「うん?」

「すきなんです」

「ああ、俺も赤也が好きだぞ」

「…ちがう」

違う。もっともっと"好き"なんて言葉じゃ表せないくらいに大きな気持ちなのに。もっと大きな。
そんな事を考えていたから柳さんの手が止まっていることに気がつかなかった。どうしたんだろうと見上げてみれば泣きそうな顔。え?なんで?

「柳さん…?」

名前を呼んでも柳さんは口を少し動かしただけで何も言ってくれなかった。何だろう、わからない。上手く回らない頭を困惑が支配する。

「やな、」

「赤也の気持ちとは…いや」

もう一度名前を呼ぼうとしたら彼はそこまで言って口をつぐんだ。

「なに、おれ…?」

ああ、俺はこんなにも焦ってるのに口が上手く動いてくれない。
柳さんは俺に顔を見せないように外方向いてしまった。こんな時、柳さんがどんな顔をしているのか俺は知っている。柳さんは傷ついた顔をする時決まって俺から顔を逸らすから、それが無意識…所謂癖だと気付いたのは最近なのだけれど。


「やなぎさん、やなぎさん」

起き上がって無理にでも顔を此方へ向かせれば案の定睫毛が濡れていた。
この睫毛の奥で瞳が不安気に揺れていることなど想像に容易い。ああ、俺はこんな顔させたかったわけじゃないのに。
柳さんは放してくれとでも言うように俺の手から逃げようとする、放すわけがない。

「やなぎさん、やなぎさんきいて。ねえ、やなぎさん。おれのはなし」

こうやって俺が言えば、柳さんが断れないのも知っている。柳さんは俺に甘いから。
嫌がっていた彼は俺の言葉を聞いて渋々大人しくなった。ああ、やっぱりこの人は俺に甘い。
顔を押さえていた手をスライドさせて柳さんの髪をさらさらと遊ばせた。何の抵抗もなく流れて行く髪の毛。この人の髪は柳さん本人を表すかのように真っ直ぐで、普段冷酷な参謀だなんて称されている彼がどんなに優しいか知っている。真田副部長とはまた違った真っ直ぐさ。

「おれね、おれやなぎさんがすきっす。だいすき。でもちがうんですよ、まだまだぜんぜんたりないのに…なんでこんなきもちつたえることばってひとつなんすかね」

俺の聞き取りにくい言葉を聞いた彼は少しきょとんとしたように見えた。ああ、この顔かわいいなあ…。

「…それを考えていたのか?」

「うす」

そのまま柳さんを抱き締めてみたら隣で小さく吹き出す音が聞こえた。

「赤也は言葉以外にそれを伝える方法を知っているんじゃないのか」

「んー?」

力強く柳さんを抱き締めて、柳さんの肩に頭をすり付けてみた。柳さんの香の匂いが鼻を通って行く。
他に?俺は柳さんみたく賢くないから、好き以外の言葉なんてわからないのに。

「無意識だなんて質が悪いな」

俺の背中に腕を回して柳さんは幸せそうにそう言った。

END



柳「ところで赤也、お前アルコールが入っているだろう?」

赤也「へ?んなことねーすよ」

柳「そうか、犯人は丸井と仁王か。全くあいつらは…」

赤也「え、え…?!(何でばれんの?!)」

――――――
桜夜さま500HITおめでとうございます!ささやかながら記念に…!
体育祭あまりにも長くなりそうだったのでひたすらべたべたしてる赤柳を書かせて頂きました!
良かったら受け取ってやってくださいませ。

桜夜さまのみお持ち帰り可となります。
H24.10.04



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