[1/2 ] 時間差であなたに ここ暫く、赤也の様子がおかしかった。 何処かよそよそしい態度で変な距離感を持って接してくる。 余りにもあからさまなそれにこの柳蓮二が気付かないわけがない。 それでも何かの気紛れか何かだろうと様子を見て早5日。 全くと言っていい程、それが改善される様子は見られなかった。 いくら些細な事とは言え、一度気に掛かってしまうと意識せずにはいられないものだ。片想いとはいえ、赤也に好意を抱いている俺にとってここ数日の赤也の行動は辛いものでしかなかった。 何時もであればいつでも何処でも「柳せんぱーい!」と駆け寄ってくる彼の姿をもう随分見ていないような気がする。 なんたって目すら合わせてもらえていないのだ。話すだなんてとんでもない。 何かあったのだろうかと思考を巡らせて見ても心当たりは見当たら無かった。 「どうしたものかな…」 「蓮二?」 自然とこぼれた言葉に隣にいた弦一郎が首を傾げる。 小さく笑って何でもないと返せば、そうかと言って納得したらしい彼はコートの方へと視線を戻した。 コートの中では赤也がOBとの試合に精を出している。 以前より精度の上がった技術に親のような喜びを感じた。 一つ一つの動きを記憶に収めて、赤也が更に強くなれるようにメニューを考える。普段と変わらない思考回路。 けれども試合後、俺が赤也に新しいメニューを伝えることは出来なかった。 俺から逃げるように赤也はそのまま丸井の所へと走って行ってしまったのだ。 部活終了後もそれが変わることはなく、流石の俺も堪忍袋の緒が切れた。 「赤也」 何かしら用事があると部活が終わって直ぐに着替えて部室を出ていった俺と赤也以外のレギュラー陣。 些かそのタイミングに疑問を持ったが、赤也を問い詰めるには絶好のチャンスなのだ。これを逃がす手はない。 俺が名前を呼んだ事により、赤也の肩がびくりと揺れる。 「…何、スか?柳先輩」 いくら避けてたとはいえ一対一での呼びかけは無視出来なかったらしい。 しまったとでも言いたそうな顔で赤也は振り返った。そんな赤也に間を置かずに言葉を投げ掛ける。 「単刀直入に聞こう、俺は何かしただろうか」 「え…」 困惑する赤也。 彼は一瞬目を見開いてから「いやあの」と目を泳がせる。 その様子をじっと見ていれば赤也は居心地が悪そうに「実は…」と続けた。 「最近、よくわかんねーんスけど色々な気持ちが自分中でごちゃごちゃになってて、どうしたらいいかわかんなかったつーか…」 目線は逸らしながらぽつぽつともらしていく。 どうやら気持ちがまとまっていないというのは本当らしい。 それは話している赤也自身の様子からも読み取る事が出来た。 「だから別に柳先輩が何かしたって訳じゃないっスよ…!」 先程のたどたどしさは何処へやら。 赤也はその言葉を告げる時だけはしっかりと俺の目を見ていた。 それは無意識なのだろうけど、それだけ必死に誤解を解こうとしているのが素直に嬉しい。 自然と笑みがもれたので、それが赤也にばれてしまわないように赤也の頭を撫でる。いつの間にか赤也への怒りは消えていた。 「そうか、ならいいんだ」 「うぃっす。あ、そうだ先輩」 赤也がばっと顔を上げた反動で撫でていた手が髪から離れてしまう。 それを残念に思いながらも「何だ?」と首を傾げた。 「…少しでも自分の気持ち整理する方法ってないっスかね?」 不安そうに尋ねる赤也が相当悩んでいるという事は想像にたやすい。 出来る事なら相談にのってやりたいが、当の赤也本人が助けを求めていない状況では単なるお節介になってしまうだろう。そう考えた俺はいくつかアドバイスをしてやる事にした。 「そうだな…お前が何について悩んでいるか知らないから的確なアドバイスは出来ないが、紙に箇条書きにしてみたりすると結構まとまったりするぞ。後は人に聞いてもらうのが一番だ」 俺の言葉を聞いてふんふんと頷くと、赤也は「また試してみますね!」と笑う。 特にこの後の用事は無かったので、俺と赤也は共に帰路につくこととなったのだった。 back |