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旅行に行こうか


「もう!幸村先輩は強引なんスよ!」

風の音が心地良い山道に赤也の声が響いた。先程の写真のことを根に持っている赤也は、ぶつぶつと文句を言いながらも俺に手を引かれている。どうやら相当お怒りのようだ。
景色を撮りたいと俺を連れて飛び出してきたというのに彼の首にかけられているカメラはまだ一度も仕事をさせてもらえていなかった。

「カメラの設定も変えるし…」

どうやら写真を撮られたことよりも勝手にカメラを弄られたことを怒っているらしい。
大切にしているもののようなので無断で触られれば当然かもしれないなと考える。まあ、確かに精市は強引だったかもしれないが、ああでもしなければ赤也は写真に映ろうとはそなかっただろうと思われるので今回は精市側に付くが。
と、先程から文句をつらつらと愚痴を零していた赤也が突然静かになったことに気がつく。振り返って見ればじっとカメラを見ていた。どうしたのだろうか。不思議に思い足を止めれば思いもしなかったような言葉が投げかけられた。

「……このカメラ、タイマーなんて機能あったんスね」

知らなかったっスと続いた言葉に呆気に取られる。どうやら赤也はカメラの機能を把握していなかったらしい。
赤也には悪いが思わず笑ってしまった。肩を震わせたいれば繋いだ手からその振動が伝わったのだろう。「笑わないでくださいよ…!」と抗議の声が上がる。

そんなことを言っても、まさか最終的にそこに落ち着くのかと面白くて仕方がない。怒りではなく結局は戸惑っていたわけだ。
全く可愛いものだと思いつつも、そろそろ拗ねてしまいそうな赤也をどうにかせねばと考える。
せっかくこの景色を残すために出てきたというのに今にも帰ると言い出してしまいそうだ。

ほら、写真を撮るんだろう?と伝えるつもりで赤也のカメラを軽くつついてやれば「そうだ写真…!」とカメラの電源を入れた。

「どこが良さそうっスか?」

見えない赤也の代わりに景色が綺麗なところを探していると後ろからパシャリと音が聞こえてきた。振り返ればカメラを構える赤也の姿。ちゃっかりと俺の姿を収めたわけだ。

「へへーん。ちゃんと撮れてるかなー?」

楽しそうにカメラを触っている赤也の頭をがしがしと何時もより強めに撫でれば「すいませんって!」と笑った。不意打ちは卑怯だぞというつもりだったのだが赤也にはちゃんと伝わったのだろうか。まあ、きっと伝わってなどいないのだろうが。

「さ!柳さんも撮れたし景色撮りましょ!景色!」

今にも駆け出して行きそうな赤也を見ていると此方まで楽しくなってくる。彼の姿に感化されながら俺は景色のいいところで立ち止まっては赤也のカメラの位置を調節してやった。
勿論、シャッターをきるのは赤也である。
撮った写真を確認して、あまりにもぶれていた場合のみもう一度と調節してやった。その確認の際、見えた先程の″不意打ち″が俺の後ろ姿しか写っていないということは赤也には秘密にしておこう。俺の些細な仕返しだ。

「柳さーん、そろそろ戻りますか?」

撮った写真はとうに100枚を越えているだろう。数え切れないほどシャッターを押して満足したのか、赤也は繋いだ手をぎゅっと握ってそう訴えた。
案外、山道を歩いて疲れたのかもしれない。そういえば俺も足が張っているなと今更に気がついた。
赤也の言葉に頷きながら手を握ることで返事を返す。そろそろ帰ろう。
俺の言葉は、今度は正しく伝わったようで赤也は「うっす!」と笑った。






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