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旅行へ行こうか


さっそく赤也のアドバイスを試みようと赤也の背中に回った。赤也も同じ事を考えたようでちょっとしたフェイント合戦になってしまったがこれを赤也が知る必要はないだろう。ありがとうという意味も込めて頭を撫でてやれば「当然っス!」と言わんばかりの表情が返ってきた。可愛いやつだ。

いざ背中にとなるとそれこそくすぐったくは無いのかと思ったが赤也は大丈夫だったようで、人文字ずつ俺が書いた文字を当てていった。一先ずは何の話かを伝えなければ始まらない。

「『たびのこと』?」

俺が簡潔に書いた言葉を復唱する赤也。
そしてきょとんと俺の方を向いて「あ!」と声を出した。

「何か決まったんスか?」

これは察しのいい。今からまた背中に書こうと思ったことを彼の方から切り出してくれた。有難いことだ。その通りだと同意する意味で頭を撫でてやる。

背中に文字を書いては赤也が正解するたびに頭を撫でる、このやり方で何とか「旅館が決まったこと」を伝えきることに成功した。

どうだ精市、これで文句はあるまい。

妙な達成感を感じていたが、目の前で素直に「どんなとこっスかねー!」「料理美味いんスかね?!」とはしゃいでいる赤也を見ていると俺まで嬉しくなってきた。

その日は結局俺が赤也に伝えただけで時間がきてしまった。わざわざ我が家まで足を運んでくれたというのに聞くばかりになってしまってすまないなという気持ちはあったが、赤也の様子を見ている限りその心配はなさそうだ。

それは帰り際に「明日幸村先輩に詳細聞いてくるっス!」と言い、楽しみで仕方ないといった様子で帰っていった赤也を見ていてわかったことだ。俺の心配は杞憂に終わったらしい。

…これで俺の役目は完了だな

パタンと玄関の扉を閉めて、静かになった家の中を自分の部屋にへと歩いた。

* * *


「しーっかりうまい事やってるんだもんなー」

翌日、つまらないといった調子でそんな事を言いながら精市が俺の部屋にへとやってきた。ノートに「何の事だろうか?」と書いてやれば「うわ嫌味!」と眉を顰められる。

「絶対無理だと思ってたのになぁ…ちょっと困った蓮二見たかったのに」

それは残念だったな、生憎そうお前の思うようにはいかないんだ。心の中でそう返しつつふっと笑った。精市はまた悔しそうに眉を動かす。

「それにしたってどうやって伝えたんだい?」

それは素直な疑問だったのだろう。さっきまでの様子とはころっと変わって此方をジッと見つめてきた。
何も隠す事はなかったので精市の後ろにへと回り込み背中を突ついてやる。

「何?背中?」

きょとんとした精市は「ふーん」と言った後にっこりと笑った。

「お前たちは面白いなあ」

どこか微笑ましそうな調子で言う精市。そんな精市が立ち上がって「さーて準備に忙しくなるね」と言った。


H25.10.22


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