[3/3 ]

旅行へ行こうか


あまりにも好戦的な赤也を落ち着かせるために、俺は指を構えた。未だ腰にへばりついている赤也の額に標準を定め、弾けば―。

「ってぇ…っ」

赤也はでこぴんを受けた場所を押さえ床にへばった。漸く腰が解放されたので俺も取り敢えずはその場に座ることにする。

「ちょ、今の…っゆ」

「俺じゃないからね。蓮二だよ」

「はあっ?!」

嘘だろ、とでも言いたそうな赤也。…何をそんなに驚くことがあるのか。俺だって強行手段にでる事だってあるというのに。

「てかさ、今のは明らかに赤也が悪いよ。何でそんなに威嚇すんのさ」

「え…いやだって、」

精市の問いかけにもごもごと口を動かすも、それが言葉になることはなかった。焦れた精市がはあと1つ溜息を吐いて「まあいいさ」と続ける。

「ここは俺が説明した方がいいよね、何から説明しよっかなー」

んー、と腕を組んだ彼は赤也の態度に少し苛立っているであろう弦一郎を見てから「よし」と口を開く。

「赤也!さっき握手してもらった人は真田弦一郎、俺達の親友だ、以上」

あまりの簡潔さに転けそうになった。いや、立っていたら転けただろう。座っていてよかった、本当に。精市にはいつも驚かされる。

「まっ、幸村先輩説明雑…!てか、え…真田…?」

「彼の言う通りだぞ幸村…もっと他にもあろう」

「でもあってるだろ?」

「否定する箇所もないがそれでもだな…」

顔を青くしてしまっている赤也を置いて2人は何時もの調子で会話を進めている。まあ、青くなっている原因は1つしか浮かばない。

「あーもー。じゃあ自己紹介くらい自分でしなよ、ねえ赤也。あれ?赤也?」

何時もの元気はどこへやら。小さく縮こまってしまっている赤也に、精市はようやく様子が可笑しいことに気付いたらしい。
そうだな、赤也は俺から弦一郎の話を聞いているのだから彼が俺達と親しいのは知っていたはずで。だからこそ先程の自分の態度を反省しているのだろう。何だかんだと言って本当にいい子だと思う。
俺はこんな風に解釈したわけだがまさか精市がそんな考えに及ぶはずがない。
メモを使うか。俺がそう考え行動に移そうとした時、意外なことに弦一郎が先に動いた。

「あー…何だ、赤也と言ったか。先程のことはそこまで気にしなくていい、お前も驚いたのだろう?」

「え…」

弦一郎の言葉に赤也が顔を上げる。まさか弦一郎がそんな言葉を掛けるとは予想外で、俺と精市は顔を見合わせた後2人を見守る事にした。

「えと、あのすんません…いきなり俺…」

「反省しているなら構わん。お前の口から名前を聞きたいのだが…」

おどおどとしていた赤也が、ぱあっと明るくなった気がした。

「切原赤也っス!真田さん!」

「そうか、切原だな…ふむ。赤也でいいか」

「はい!」

…なんだこのほのぼのとした雰囲気は。何故かもやもやする、気に食わない。何がかはわからんが。

「よーしストップ。自己紹介はいいね、うん。いいよね、次の話に移ろうか」

共に見守っていた精市が2人の間に入った。精市ありがとう。お前に拍手を送りたい。

「次…とは何だ?」

「いやね、どうせなら赤也も一緒に行かないかなーって」

「旅行か」

「うん、そうそう」

精市のこの言葉にびっくりしたのは俺だけではないだろう。しかし、俺としてはいい案だと思った。そうすれば、彼が寂しい思いをする事はないのだから。

「え、俺も…??」

「嫌かい?」

「そんな事ないっス!でも、俺もいいんスか…?」

「勿論。ね、真田」

す、と精市の視線が弦一郎にへと移動する。
一瞬の沈黙が部屋を包み、赤也がごくりと息を飲むのがわかった。それは、赤也にとっては長い沈黙だったに違いない。なんせ、弦一郎の一言で変わるのだから仕方ないだろう。

「まあ…いいのではないか?」

悪い奴ではないのだろう?とそう続けてぽんと赤也の頭にへと手を置く。
先程までのやり取りから、拒否される確率はかなり低かったわけだが…やはりこうなれば嬉しいものだ。
赤也は目に見えて喜んでいて、今にもはしゃぎ出しそうな勢いだった。

「じゃあ決まりだね。後は任せといてよ」

「ああ、頼む」

「よろしくお願いしますっ!」

自分も礼を伝えようとしたところで精市と目があったので、笑うことに止めた。

こうして、俺達4人の旅行は決まったのである。

――――――――――――

予定では三部構成の旅行編
気持ちの変化などがちらちら表せたらいいな

H24.05.15


next


back