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はじめての会話


『切原』


突然呼ばれた自分の名前。

でもその声は機械のもので、所々にノイズが混じっていた。しかしそれも聞き取りにくくなる程の物ではない。

それでも、やはり機械のものである事は明白だった。

けれど俺はそんな簡単にわかるような事にも気付かずに、先ず最初に考えたのは「ここはどこ?!」という事だ。
今、自分がいると思っていたのは柳さんの部屋。そこにいるのは俺と柳さんだけのはずなのに、声が聞こえた。

…え?どうなってんの??

『反応は無し…か』


思考が追い付かない俺の事など知らずに、声が続く。それによって現実に引き戻された。
今、ここでこんなふうに自分に話し掛ける相手。それはきっと先程まで俺の手を引いてくれていた…


「柳、さん…?」


俺の声は確信が持てなかったために小さい物だった。
それでも柳さんはちゃんと聞き取ってくれていたようで『ああ』という機械音が部屋に響く。


それは決して柳さんの声では無かったけれど、俺は何とも言い表せない感動を感じた。
話すことは出来ないと思っていた柳さんと今、話しているのだ。


「え、でも何で…?」


その事実がいくら嬉しくても、どうしても残る疑問に首を傾げれば柳さんがクスッと笑った気がした。


『音声ソフトだよ。最近の技術は凄いからな、それを少しいじったんだ』


その言葉で漸く俺は納得した。柳さんに教えてもらうって何だか新鮮な気分だ。


『ところで、切原。今日はどうした?』


柳さんの問いかけに答えようとした所で、俺は一つの違和感を覚える。
頭の中でもう一度柳さんの言葉を繰り返してその正体に気が付いた。


「ちょ…!柳さん!切原呼びは無しっスよ!」


『…は?』


「だから!呼び方!!」


まるでいきなり何を言いだすんだとでも言いたそうな柳さんにちゃんと伝わるように繰り返す。

「切原」だなんて呼んでほしくない。友達も先輩も、みんな「赤也」と呼んでいるのに。なのに柳さんが自分の事を「切原」何て呼ぶのは寂しすぎる。俺の気持ち的に。
だって俺の事を苗字で呼ぶのは親しくない人だけなんだから。


『…何か、問題があるのか?』


「大ありっス!!」


『そうか』


俺の必死の訴えが通じたのか、『わかった』という声が聞こえてくる。
これで「切原」だなんて他人行儀な呼び方では無くなるだろう。俺はホッと息をついた。

しかし、俺の考えは甘かったのだ。柳さんは俺の予想の斜め上を行っていた。


『切原くん。…これでいいか?』


「――っ、いくない!!」


良くなるどころか酷くなった呼び方に、俺は直接「赤也って呼んでほしいんスけど…」と言うはめになったのだった。



→後編へ

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長くなってしまったので前半後半に分けました!

普通の音声ソフトだとあまりうまく操作出来なかったから自分でいじった柳さん。
出てきてないけどきっと乾に助けてもらってます

H23.10.28


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