初デートでGO!

電車を二本程乗り換えて着いた目的地。
やはり休日の遊園地は人で賑わっていた。

入場券を買って遊園地の中へと一歩入れば、まるで違う世界にいるような錯覚を起こす。中学生になっても遊園地に来た時に感じる高揚感は失われていないようだ。

早速絶叫マシーンやらなんやらに乗りたい衝動に駆られたが、今日は只遊びに来た訳ではないのだと頭を振って自分を正す。

今日は柳先輩とデートに来たのだ。自分だけが楽しんではい終わりだなんてあってはならない。

ふと柳先輩の方を振り返れば幾らか機嫌の良さそうな先輩が「どうした?」と笑いかけてくれた。
それだけで俺の心は満たされた気がしたが、このままこんなゲート付近で立ち止まっている訳にもいかないだろう。
1つ思い当たった俺は「ソフトクリーム食べましょうよ!」と先輩の腕を引っ張った。


売店で購入したのはバニラと抹茶のソフトクリーム。

2つとも買ったのは俺で、そのうち1つを柳先輩へと差し出す。これも幸村部長から貰ったアドバイスの中にあったうちの1つだ。
『8.男としてデート中の金銭関係は出来る限り負担すること』そう言われて中学生の自分に出来る事はこれぐらいである。

しかし、満面の笑みで渡したそれに柳先輩は申し訳なさそうな顔をした。

「それはお前の分だろう。先輩として後輩に奢らせるなんて出来ないな」

「え…っ」

まさか断られるとは思っていなかった。
当たり前の様に2人分と考えて二種類のソフトクリームを買って来たのだ。ここで先輩に受け取って貰えなかったらこれが無駄になってしまう。

あたふたと慌てる俺。
1人で2つ食べれない事もないが、2人でいるのに2つのソフトクリームを1人で食べること程虚しいことはないだろう。

そんな俺を見兼ねてか、柳先輩は俺の手からそっと抹茶のソフトクリームを攫っていった。

「…折角だものな。やはりこれは有難く貰っておこう」

「柳先輩…!」

ぺろりと先にソフトクリームに口を付ける先輩。「美味しいな」と溢す柳先輩に、頬が更に弛んだ。

「これを食べたらアトラクションにも乗ろう。俺はあまりこういう所へ来ないからオススメを教えてくれないか?」

ベンチに腰を下ろして俺を見上げる先輩の隣に同じように座りながら「はい!勿論っス!」と元気に答える。

思いもよらない所で、今日は無理だろうと思っていた"エスコート"を出来る事になったのだ。嬉しいに決まっている。
「じゃあまずはジェットコースターからっスね!」と俺はこれからの予定を柳先輩に1つずつ伝えていった。

* * *


楽しい時間なんてあっと言う間に過ぎてしまうもので、時計は既に6時をまわっている。

何やかんやと言って楽しんでいたのは俺の方な気がするが、隣の柳先輩も満足そうだったのでホッと一息つく。ジェットコースターや急流滑りでさえ悲鳴を上げなかった柳先輩は流石だと思った。うん。
兎に角今日1日がいい思い出になったのは確かだ。

近付いて来た分かれ道に、そっと柳先輩の手へと自分のそれを伸ばした。

触れた手に驚いたようだったが直ぐに握り返してくれる事がとても嬉しい。10メートルにも満たない距離を手をつないで歩く。

「じゃあ、柳先輩」

「ああ、気をつけてな」

離れる手が名残惜しかったけど、また明日直ぐに会えるのだ。寂しがる事はない。
けれど、これぐらいなら許されるだろう。

自分が帰る道とは逆へと歩きだそうとしていた先輩の服を引っ張ってその唇にそっと自分のそれをくっつける。
周りに人がいないことは確認済みだ。

何が起こったのか理解して真っ赤になった可愛い人に怒られる前に走りだす。

後ろから「赤也っ!」と俺を呼ぶ声が聞こえたが俺は振り返らなかった。

怒られるのは明日でもいいだろう。
それは今日1日はあの人の頭の中を自分で埋めてやるんだという俺の気持ちの現れだった。

END


1600キリリク小説です!
由美さまリクエストありがとうございました!
遊園地デートということでしたが遊園地迷子で申し訳ありません…!

リクエストして下さった本人さまのみ苦情・お持ち帰り可となります^^

余韻クラッシャーなおまけ


H23.10.14

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