初デートでGO! 俺、切原赤也は柄にも無く悩んでいた。 原因は至極単純で、大好きな柳先輩についてだ。 1週間前。俺の恋は見事成就し、今俺と柳先輩は世間一般でいう「恋人」という関係になった。 こうなってから先輩と恋人らしい、例えば帰りや登校を一緒にしたり、昼休みに一緒に昼を食べたり…思い返すと付き合う前と何ら変わってないけどまあそんな毎日を送っていた訳だが、折角こんな関係になれたのだ。俺には1つやりたい事があった。 「俺、柳先輩とデートしたいんスよ」 「それはこんなとこまで来て言うことかい?」 白い部屋の中、俺が柳生先輩から「お見舞いに行くならこれも」と渡されたりんごを手で転がしていた幸村部長の第一声はそれだった。 あ、部長ごめんなさい。謝りますんでそんなにりんご握りしめないで下さい、割れそうですって、がちで。 幸村部長の手の中でみしみしと音を立てている今にも砕け散りそうなりんごを見ながらも、俺は恐る恐る続けた。 「だってこんなこと相談出来るの部長しかいないんスよぉ…」 副部長なんて論外だし、柳先輩は本人だし、柳生先輩は変にロマンチスト入ってて当てにならないし、仁王先輩に至っては騙されそうだし、丸井先輩は面白がって終わりそうだし、ジャッカルは…経験無さそうだから論外。こうなると最終的に部長しか相談出来る相手がいなくなってしまう。 「ふーん…。で?何?赤也は柳とデートしたいんだっけ?」 どうやら先程までの怒りはどこかへ行ったらしい。恐らく面白そうだからまあいっか、って所なのだろうけど。俺としては相談に乗ってくれるならその過程はどうでも良かった。 こくこくと精一杯首を縦に振る。 「うーん、じゃあ考えておくから。また今度おいで」 「ええ?!今じゃないんスか?!」 のり気味だった部長に期待していただけに先延ばしにされた落胆は大きい。 がくんと肩を落とした俺に幸村部長は笑いながら続けた。 「ちゃんと真剣に考えてやるって言ってるんだ。少し位考える期間を貰っても罰は当たらないと思うけど?」 幸村部長の言葉も最もで、俺は渋々「わかりました…」と返した。 それを聞いた部長が「じゃあ今日はもう帰りなよ」と笑うので、まだもやもやとした気持ちを抱えながらも俺は病室を後にする。 きっと部長ならいいアドバイスをくれるだろう。 そんな期待をしながら俺は病院を後にしたのだった。 * * * 俺が幸村部長のところまでアドバイスを貰いに行った2週間後の日曜日。 俺は見事柳先輩と約束をして、デートをする事になった。 初めてのデートくらいリードしたいし、絶対に失敗などしたくない。 だからこそ幸村部長にアドバイスを強請ったのだ。 あの日から数日後、幸村部長は約束通りアドバイスをくれた。それもご丁寧に本にまでして。 部長曰く、 『ここに書かれているポイントはしっかり押さえるんだよ。そしたら成功する』 らしい。 本の中には意外とまともな事が書かれていたので本当なのだろう。 いったいあの本の内容を何処から探して来たのか疑問ではあるが、先ずは目の前のデートを成功させる事が最優先である。 待ち合わせ時間までまだ15分程余裕のある時間に待ち合わせ場所に着いた俺は、もう既にそこに立っている見知った姿を見つけて駆け寄った。 「柳先輩ー!」 小さな単行本に目を落としていた先輩が驚いたように顔を上げる。 「赤也、おはよう。今日は早いんだな」 「俺が先輩待たせる訳ないじゃないっスか!」 自信満々に言ってみせれば「普段からそんな姿勢で朝練にも臨んでほしいものだ」と笑われてしまった。 しかしその顔には不快感等は無い。 ここで俺は本に書かれていたポイントを思い出した。 『1.遅刻はするべからず』 やはり相手を待たせるのはいけないということだろう。先輩の偉いぞ赤也、見直したという言葉を聞きながらそう思った。 「じゃあ柳先輩!行きましょうか!」 柳先輩の腕を引けば、仕方ないやつだと微笑みながらついて来てくれる先輩に自然と笑みが零れる。 今日のデートは絶対に成功させてやるんだ 本にあった『4.必ず車道側を歩く』を実践しながら、俺は柳先輩と目的地である遊園地を目指したのだった。 next back |