next year 今日、3月5日は他でもない俺の誕生日だ。 それでも、もう直ぐそこまで卒業式が迫っているこの時期。何だかんだと言って忙しい。 卒業式の練習やらお別れ会の準備やら。 だから誕生日だなどと言っても期待はもともとしていなかった。 この歳になってまでやれプレゼントだのやれお誕生日会だのなど強請るつもりは毛頭無い。気持ちって大事だからね。 そりゃまあ両親にはばっちり強請ったけど。折角の1年に1度我儘が許される日なのだから。 まあそんな訳で特別な祝い方はもとより期待していなかったわけだ。俺は。 だけど、何でだろうね? 大好きな柳から言葉すら貰えてないんだけど。 クラスの友達や委員会の友達からは「おめでとう」という言葉をもらった。祝ってもらえていない訳ではない。 それどころか可愛いラッピングの施されたプレゼントをいくつも貰った。感謝だって言葉じゃ足りないくらいにしている。けれど…。 「…俺、欲張りだなぁ」 自覚してたけどね。 机に伏せながら、その横に置かれた紙袋に目をやった。 そこには溢れんばかりの貰い物があって、持って帰るのに一苦労しそうだ。 これだけの愛情を貰っているのにまだ足りないだなんて。 別に物が欲しいわけじゃない。ただ。ただ一言、あいつから言葉が欲しい。 目を閉じて頭に彼の顔を思い浮べた時、携帯が着信を伝えた。 time:2012/ 3/ 5 15:54 from:柳蓮二 sub :無題 ―――――――――― 今日は一緒に帰れそうか? ---END--- 何時もと違わないメールだった。 え?まさかあの柳に限って今日何の日か憶えてないとか?恋人の誕生日忘れてるの? 少しの怒りを覚えながらも返信を作成する。 time:2012/ 3/ 5 15:56 to :柳蓮二 sub :Re無題 ―――――――――― もちろんだよ(#^ω^#) ---END--- ちょっと怒りを加えてやった。これくらい許されるだろう。 自分から「今日誕生日なんだけど…」なんて言うのは何か負けた気になるので止めた。 そこから柳が迎えに来るまで隣の席の奴が震えてたけど、俺のせいじゃないと思う。うん。 「精市」 「…柳。じゃあ帰ろうか」 「…ああ」 鞄と紙袋を抱えて教室を出る。 この荷物を見てもまだ何も言わないのか。いっそ意識的に言って来ない気がしてきたぞ。 2人並んで帰路に着く。 ああ、もう別れ道だというのに結局望んだ言葉は貰えなかった。 「じゃあまた明日」 「…精市」 「何」 「誕生日、おめでとう」 そう告げる柳の手には小包み。 なんだ、忘れていたわけじゃ無かったんだ。でも…。 「遅い」 「すまない」 「プレゼントがあるって事は、忘れていたわけじゃないんだろ?どうしたのさ」 柳の様子を窺うように見上げるが、何時もと同じ顔がそこにはあった。 「…ちょっとした意地だ」 「はあ?」 「他と混ざりたく無かった。精市の受信ボックスが誕生日メールで溢れている確率96%」 「…まあ否定しないけど」 「それなら、」 そこで区切って此方を見る。 「それなら最後になっても口頭で伝えたかった」 「……馬鹿だなあ」 あまりにも愛おしかったのでキスしてやった。 ああ、何て可愛いんだろうね。 「それなら泊まりにでも来れば良かっただろ?1番も直接も解決じゃないか」 きょとんとした柳が「なら来年はそうさせてもらおう」だなんて言うもんだからその場で襲ってやろうかと思った。 H24.05.20 back |