そんなこともあるさ

「ん?参謀ちょっと声擦れとるの」

「…え?」

部活の休憩中に、突然仁王にそんなことを言われた。
言われてみれば、確かに少し擦れている気がしない事もない。

「ああ、そうかもしれないな」

よく気付いたものだと感心していると、仁王が「ほーぉ」と変に納得したような声を上げたので「何だ」と睨んでやった。

にやにやと気持ちの悪い。

「いやー、昨晩は随分ハードじゃったんじゃなと思うてな」

変わらず口元に孤を描いている仁王に嫌気がさした。「昨晩」が何を指しているか分からない自分ではない。
何てことをさらりと聞いてくるのだろうか。

「馬鹿が。お前には関係の無い事だろう?」

「そりゃそーじゃけどやっぱり気になるもんぜよ?」

悪びれもなく返してくる彼が鬱陶しい。
そろそろ切り上げようと声を上げようとした時、覇気のある声がコートに響いた。言うまでもなく、副部長である弦一郎のものだ。それを聞いて、仁王も諦めたらしくとぼとぼとコートに入っていく。


…あいつは知っているのだろうか?


ふと疑問に思い暫く仁王を目で追うことにした。

いつもと同じように柳生にちょっかいをかけて怒られそこから弦一郎の下へ。
何か暫く話した後、彼は笑いながら弦一郎の腰をラケットで軽くたたいた。話の延長上の冗談だったのだろうが、事はそれでは済まなかった。
何せ、それを受けた側の弦一郎が珍しくしゃがみこんでしまったのだから。
それを見て慌てる仁王のなんと面白いことか…。

暫くそうしていた彼がはっ、と何か思い当たったように俺を見る。その顔には大きく「まさか」と書かれているようで、俺はそれにただ笑うことで返事をしてやった。

ああ、詐欺師を詐欺にかける事のなんと楽しいことだろう。
やはりあいつは知らなかったようだ。
受け身なのが弦一郎であるということを。

END


H23.12.19


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