3という数

"3"というのは中々に厄介な数字なもので。

気が付けば2人と1人になっていたりするものだ。

今もほら、この通り。




部活もない休日の俺の家。

試験終わりだった事もあり、「たまには3人でのんびりしようよ」と言う幸村の提案から俺達は同じ時を過ごしていた。

3人で、と言っても俺達3人の共通の趣味と言えばテニスぐらいの物なので家の中に入ってしまえば特にする事は無い。

だから俺達は各々で好きな事をしていた。場所が俺の部屋なので面白い物などないが、幸村や蓮二はそんな中で自分の楽しみを見つけている。

俺の部屋の縁側に腰掛け庭の花を眺めている幸村と、家から持って来たのであろう文庫に目を落としている蓮二。

そんな2人を視界の端に捉えながら、俺も同じように手に持っていた将棋の教本へと目を走らせた。


広がる静寂。

それは決して息苦しい物ではなくて、寧ろ心地よい程の物だ。

「あ」

そんな中に、幸村が思い出したような声が響いた。

顔を上げて幸村へと顔を向ける俺と蓮二。

そんな俺達を知っているのか否か、幸村は庭の方を向いたまま空を見ている。

ただの独り言かと再び本へと視線を戻そうとした俺達を振り返りながら幸村は再び口を開いた。

「柳、ちょっと聞きたい事あるんだけど」

これを聞いても分かるように、どうやら俺には関係の無い話だったらしい。そうと分かれば聞き耳を立てる必要もあるまいと俺は本へと意識を集中させた。


* * *



あれからいくら時間が経っただろうか。

ページが半分以上残っていた本を読み終わった後も、まだ幸村と柳の話は終わっていなかった。

世間話に花を咲かせる2人を見ながら、読み終わった本を本棚へと片付ける。

所々で笑顔を溢す2人が何故か遠くに感ぜられた。

「(こんな弱気な事を考えるとは…たるんどるな、俺は)」

頭を振ってたるんだ考えを振り払う。

変な考えは消えたが、それでも2人の間にわざわざ割って入る気もなかったのでただ2人の傍に座るだけにとどめた。

「真田!真田はどう思う?!」

そんな話を聞くだけにしようとしていた俺の肩を、幸村が興奮したように掴んだ。しかし状況を理解していない俺に「どう思う?」と意見を求められても何とも答えようがない。

「…は?」

「精市、弦一郎は今まで本を読んでいたんだ。何の話か教えてやらないと」

「あ、そっか」

蓮二の言葉に肩を掴んでいた幸村の力が少し緩んだ。

「いやね、きのこの山かたけのこの里かで柳と意見が別れてさ」

「…どっちも変わらんだろう」

「甘いな弦一郎。これは重大な問題だぞ」

俺が本に集中している間に幸村の最初の話は終わっていたらしい。
まさかそんな話題になっているとは。

「……俺は菓子を好まん」

「くそー、やっぱり真田は食べないか」

「なら買ってこよう。精市、弦一郎に食べ比べてもらってどちらが旨いか決めてもらおうではないか」

「あ、それいいね。よろしく真田」

「待て。勝手に決めるな」

大体それでは俺の好みが入るだろうと文句を続ければ、2人はそれもそうかと顔を見合わせる。

再び目が合った俺達は誰からともなく笑い合った。



"3"というのは中々に厄介な数字なもので。

けれども3人であるからこそ、出来ることもあって。


2人が話している姿を見て、遠くに感じるなんてばかなことだ。


2人は結局そのなんとかという菓子を買いに行く事にしたらしく、さっさと出る準備をしている。

そんな2人に続くために俺は立ち上がったのだった。


END


仲良しな3強が好きです

H23.10.20

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