スイカとわがまま

肌を刺すような太陽に眉を寄せる。
家の中に居ても大して暑さは変わらなかった。
今年は節電がどうとかテレビでよく言われているのでクーラーは控えなくてはと思っていたが、これは厳しいのではないだろうか。
そう思い立ち家を出たのがつい30分前。今幸村は中庭の見える真田の部屋にいた。

自分の家にいるより涼しいのではないかと考えての事だったがどうやら考えが甘かったらしい。
ここも暑いのは変わらなかった。
違いといえば先程から風が入るたびに揺れる風鈴だろうか。
周りの温度は変わらないが、それでもその音を聞くと随分涼しくなる気がした。

「いきなりやって来て何をやっとるんだ幸村」

何をするでもなく畳の上に転がっていた幸村に、真田は顔を顰めながら声をかける。
それを聞いて顔だけをそちらに向けた。

「暑いんだよ」

シンプルにそれだけを言えば隣にどかりと腰を下ろした真田から「たるんどるぞ」と小言をくらった。

「心頭滅却すれば火もまた涼し、だ」

そりゃお前はそうだろうよ、と心の中で毒づく。
真田の日々の生活態度を見ていればそれぐらいやってのけそうだと思った。

「それにこの部屋は他より涼しいのだぞ。風通しがいい」

続けられた言葉は事実なのだろうが暑いものは暑いのだ。

「それでも暑いんだよ、真田」

幸村の言葉を聞いた真田はそのまま無言で部屋を出て行ってしまった。

…怒らせてしまっただろうか?

いきなり訪ねて来た友人は自分をほってごろごろとしており、しゃべったと思えば「暑い」の一言。

幸村は己の行動を振り返りこれは怒られても仕方ないと反省した。

真田が戻って来たら謝ろう、そう考えていると再び部屋の襖が開く。
そちらに目を向ければスイカを皿にのせている真田の姿があった。

「…真田、どうしたのそれ」

すっかり謝ることなど忘れてただそう訊ねる。
それに対して彼はこう言ったのだ。

「そんなに暑いならスイカでも食べて涼めばいい」

と。

大概彼は自分に甘い。

幸村が真田に対してわがままになってしまうのは真田にも非があるのでは無いかと思う。

真田の言葉に甘えてかぶりついたスイカは程よい甘さがあってとても美味しかった。

真田も美味しそうにスイカを食べる幸村を見て嬉しそうに微笑みスイカにかぶりつく。

庭から入ってくる風を感じた幸村はこんな夏もいいかもしれないと再びスイカを口に入れた。


そんな暑い夏のある日の話。

END


もう季節は秋ですがまだ暑さが残っているので
H23.09.17

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