ワールドエンドアンブレラ〜アナザーストーリー〜

硬く閉じていた檻が開く音がする。
ああ、ついにあの2人は扉を開けてしまったのかとどこか冷静な頭で理解した。俺達がそこに着いた時には、もうすでに逃亡者である彼らは走っていて、俺は脚をゆっくりと止めた。
それを見て後ろをついてきていた真田も立ち止まる。

「いいのか?幸村」

眉を顰める彼はきっとまだあの2人を追いたいのだろう、かつての級友を。
それは俺だって同じ気持ちだったが俺は気付いていた。
あの2人が俺達の言葉に耳を傾けるほど素直でない事に。

「いいわけないだろ」

ぎりっと唇を噛む。口内に鉄の味が広がったが、そんな痛みよりも悔しさの方が勝っていた。
ますます遠ざかって行く背中を見ていると、ふと柳生が振り返るのが見えて…―
ああ、何て顔してるんだ。
その表情は申し分けそうな、それでいて強い意志が滲んでいた。
それを見ていつかの先輩の言葉を思い出す。彼ら同様、全てを捨てこの階段を駆け登った2人の男女。今走り去る2人に先輩の話の中の2人を重ねて、そして理解した。

『俺はな、あの2人を止められなかった。いや、止める資格などなかった。
2人はとても綺麗だったから―』

先輩、今ならわかりますよ。自分の信じる道を進む彼らは本当に綺麗だ。
たとえその先にあるものが死だとしても…。
俺はそのままそこに座り込んだ。
あいつらの姿を見ている事など出来なかった。

「…戻ろう、幸村」

真田が慰めるかのようにぽんと頭に手を置いてくれて、暫くその手にすがって泣いた。




彼らを人々は馬鹿なヤツだと罵るだろうか。
俺はそうは思わない、しかし同時に決意する。
ここを、もう誰も通らせまいと…。


階段を降りる際、一度だけ上を見上げる。
そこにあるのはさびた天井だけだったがその上、彼らが求めた「空」。
俺だって見てみたくない訳ではない、手に入れたくない訳ではない。
だけど悲しみを生み出すわけにはいかないから。


その後、俺は振り返らずに階段を駆け下りた。
はるか頭上で扉の開く音がする。


――――さようなら、


ぽつりと洩らした呟きは、やがて塔の闇に呑み込まれた。




END


H23.09.04


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