それも一種のスパイス

いっそ笑い飛ばすことが出来れば良かったのかもしれない。
しかし、目の前の彼はそれを許してはくれなかった。
押さえ込まれた右腕が痛む、何て力強い目をしているのだろう。
吸い込まれてしまいそうなそれから目を離したくなるが、顔を背けようとしたその瞬間。真田の手が俺の顎を捕えてそれを妨げた。

「ちょっと、真田…!」

病室のベッドに沈められているこの状況に抗議しようと口を開くが、それも真田が続けた言葉に遮られる。

「本気なのだ」

眉を寄せ、顔を歪める真田の表情はとても辛そうだ。
恐らく、相当悩んだのだろう。それは彼の目の下に出来ている隈が指していた。

「俺は、お前が好きなんだ。幸村」

ふと、顎を押さえていた右手が頬へと滑る。
それは先程までのような強引なものではなく、慈愛に満ちたそれだった。
真田は続ける。

「お前を守りたい」

…なんてこの男は真っ直ぐなのだろうと思った。
同時に胸がはねる。
心臓がうるさくなっているのは気のせいではないだろう。

「答えを、もらえないだろうか」

その言葉に、今まで緊張していたはずであるというのにくすりと笑みがこぼれる。
すぐに返事を求めるところが何て彼らしいのだろう。答えはもう決まっていた。

自分に覆いかぶさっている彼に顔を近付ける。

窓から入った夕日が重なる2人の影をうつしていた―。

END


強引な真田さんでもいいじゃない

H23.09.06

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