誕生日の君へ

その日は朝から幸せであった。

いつもは鬼みたいに怖い姉ちゃんも優しかったし、親だって朝ご飯には俺の大好きなもんばかり出してくれていた。きっと夕飯は焼肉に連れていってくれるのだろう。

そんな特別待遇の訳は、今日が1年に1度の俺の誕生日だからに他ならない。
今日だけは多少の我儘を言っても許されるのだ。

だから今日はいつもより沢山大好きな先輩に甘えようと思っていたのにこれはいくら何でも酷いだろう。

俺は部室に入るなり部長の言葉を聞いて肩を落としていた。

「蓮二は今日家の用事で休みだそうだよ」

そりゃないだろうというのが素直な感想である。何でよりによってこのタイミングなのか。明日でもいいのにと唇を噛む。
今年の誕生日は生憎の日曜日で、クラスの奴には祝ってもらえない変わりに部活は午前中のみで昼からは自主練というメニューになっていた。だから予定では昼から2人でいちゃいちゃしていたはずなのだ。
もしかすると自分の誕生日なんて忘れられているのかもしれない。

「そんな顔してないでほら」

笑顔で背中を押しコートに向かわせる部長にしぶしぶコートに向かった。

いくら身体を動かしても気は晴れなくて時間だけが刻々と過ぎていく。
気付けば「解散!」と号令が掛けられていて自分がどれだけ集中していなかったのか知るはめになったのだった。


とぼとぼと帰宅する帰り道。
日はまだ高いけれど特に予定もなくて真っ直ぐに帰る。ゲームセンター等に寄っても良かったのだが気分になれなかった。

大通りを通る、すれ違って行くカップルが憎たらしくて仕方がない。リア充まじで爆発しろ。そんな理不尽な文句をひたすらぶつけながら歩けば駅に着いた。

本当なら今頃…。

考えれば余計に虚しい気分になる。もう今年は大人しく帰ろう、そう思って足を踏み出した時だ。
ポケットに入っていた携帯が着信を告げる。
こんな時に誰だと取り出したそれに出ている名前を見て目を見開いた。


from柳先輩
sub 無題
――――――――
俺の家に寄ってくれないか?


内容はそれだけだった。
それでも俺を元気にするには十分で、携帯を握り締めたまま電車に乗り込み柳先輩の家を目指す。
やがて見慣れた大きな家インターホンを押した俺は柳先輩に迎えられる。

「よく来たな、赤也」

扉を開けて出てきた柳先輩はいつもと変わらなくて、もう用事は大丈夫なんスかと訊ねれば午前中で済んだと返された。

招かれるまま玄関に入ったところであることに気付く。

「あれ?家の人いないんスか?」

靴が少なくなっていたのでそう聞けば、用事が終わった後そのまま出掛けて行ったと教えてくれた。

そのまま通されたリビングに置かれてあったのは可愛らしいサイズの誕生日ケーキで、俺はバッと先輩を振り返る。

「…お誕生日おめでとう、赤也」

今まで忘れられていると思っていた分喜びが大きい。
綺麗に笑っている先輩に抱きつけば「遅くなって申し訳ない」と謝られてしまった。

「謝る事なんかないっスよ!凄く嬉しいっス!!」

「喜んでもらえて何よりだ」

安心したように笑う先輩を見て幸せな気分になる。

この後ケーキを食べてからちゃっかり先輩も頂いちゃったんだけど、それはまた別の話。

END


今何日ですか遅れ過ぎて申し訳ない赤也…!

H23.09.28

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