油断できない

俺、切原赤也は宣言しておきたい事がある。
何でもそつなくこなしてしまう、文武両道で才色兼備な柳先輩は俺の恋人だ。
つまり何が言いたいかって、無闇に近づくなってことですよ!


はっきり言って柳先輩は隙が多いと思う。一見クールで近寄りがたいイメージがあるかもしれないが、それは最初だけだ。

馴れ親しんでいけば彼のそれは自分自身のただの思い込みだと言うことに気付くだろう。
彼の纏っている雰囲気はどこか落ち着きを感じるし、さりげない気遣いや決して押し付けがましくない優しさなんかは此方を心地よくさせてくれる。

勿論それはあの人の全てではないし、他にもいいところはたくさんあるのだけれど、今言いたいのはそんな恋人自慢ではないのだ。
先にも述べた通り、あの人は隙が多すぎる。

性格なのか性なのか、あの人は頼られればなんだってしてしまう。つまり面倒見がいいのだ。そんな彼はテニス部の参謀という立ち位置だけでなく学校を纏める生徒会にまで所属していて、挙句定期考査は毎回毎回トップと来ている。ぶっちゃけ学校の有名人だ。

しかし当の柳先輩はといえばそんなこと気にも留めていない。

まるでそれがたいした事ではないとでもいうような立ち振る舞いで、決して驕ったり他人を見下したりしないのだ。当然そんな完璧な人が人に好かれないはずが無い。
俺が知っているだけでもすごくて、まあテニス部は大抵人気ものなんだけれど…ってそうじゃなくて!クラスに遊びに行けば読書してることの多いあの人の周りに人がいることは少なくても少し離れている所から視線を送っている女たちがたくさんいるし、昼休みなんか1年のときからセット扱いされている部長や副部長があの人の隣を占領してるし放課後になればいろんなヤツから相談を受けている姿を眼にする。俺からしたらそんなの面白いはずもなくていつもいらいらしているのだ。

「つー訳で俺だけのモンになってください」

「話が見えないな」

俺の今世紀最大の告白は見事に玉砕した、それも相手に一切伝わることなく。
あ、そういや俺何も口に出してなかった。

こんな悩みを本人に言うなんてなんか嫌で、色んなところを省いて要約したのが先程のあの言葉だった訳だが、やはりというかなんというか伝わらなかったらしい。

「俺、柳先輩は隙が多すぎると思うんすよ」

「ほう…それは初めて言われたな」

「もう!ちゃんと聞いて下さいよ!」

感心するような彼の様子に声が大きくなる。
本当に勘弁して欲しいのだ。彼が自分ではない誰かの元に行くなんて考えられないけれど、それでもいい気持ちはしないのだから。

「聞いているさ。それで赤也は俺にどうしてほしいんだ?」

苦笑いする先輩に言葉が詰まった。
自分は彼にどうして欲しいのか、そんなの決まっている。

「…俺以外の人としゃべってほしくないっス」

ふてくされるようにそっぽを向いて言えば、柳先輩は困ったように笑った。

「それは大変だ。ただでさえ頭の中は赤也でいっぱいなのに現実まで赤也で染まってしまう」

言われた言葉の意味を理解するのに数秒。
それはとても思われているってことじゃないだろうか?

俺は先程まで感じていたいらいらをどこかに落としてきてしまった。

この人はこんな恥ずかしい言葉をさらりと言ってくるのだ。
本当に厄介な人。

でもこんな先輩だから好きなのだ。

「もういいっスよ、でも俺のこともしっかり構ってくださいね!」

「勿論」

しっかりと返される返事が嬉しくて俺は笑った。




(ちょ…!先輩さっきのあれなんですか…!!)
(あれ?ああ、ただのおふざけだろう?)
(だからもっと危機感持ってくださいって言ってるのにいいいい)
END

()内はクラスメイトに後ろから抱きつかれているのを発見した赤也が柳に問い詰めてる時の会話。
赤也がんばれ。
H23.09.22

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