こんな日もあり 雨の日なんて大嫌いだ。 傘をさすのは面倒だし部活だって外で出来なくなる。 その上、湿度のせいでただでさえ癖毛な頭が更にうねるのだからたまったもんじゃない。 しかも今日に限っては傘まで忘れる始末である。 雨は生憎の土砂降りで、流石にこの中を傘無しで帰る気にはなれなかった。 仕方なく玄関の隅によって空を見上げる。 先程から降り続いている雨は暫くは止みそうにない。 早く学校が終わったので早く帰ってゲームをしこたまやってやると決意していたのにこの様子ではそれも諦めるしかないだろう。 どうやら雨は赤也が欲求を満たすのを妨害しているようだ。 実際に雨がそんな意地悪を出来るはずが無いのだが、今の赤也にはそうとしか感じられなかった。 学校の玄関口で待ちぼうけ。 全くもって楽しめないシチュエーションである。 これがもし、大好きな柳を待つというものなら赤也も喜んで待っただろうがそんな上手く行くはずもなく。 彼は今頃生徒会室で会議なはずだ。 「あーあ、つまんねーの」 その場に座り込み大きくため息をもらす。 今はもうすぐに帰れる生徒は学校を後にした時間なので邪魔になることはない。 鞄の中に入っていたボールを手で転がしながら時間を潰した。 30分経っても雨足が弱まる事はなく、赤也はいつの間にか重い目蓋を下げていたのだった。 「…赤也?こら、こんなところで寝るんじゃない」 遠くで優しい声が聞こえる。これは大好きな先輩のものだ。こんな幸せな夢を見ていられるならもっと眠っていたい。 「赤也。ほら起きろ」 眠っていたいと願う気持ちとは逆に肩を揺らされる違和感を感じて赤也は目を開けた。 「あれ、柳先輩…」 そこにいたのは生徒会室にいるはずの柳で、自分はまだ夢を見ているのかときょとんとする。 しかし目の前の彼は現実のようで、まだ寝ぼけている頭をこつんと叩かれた。 「こんな所で寝ては駄目だろう?風邪をひくぞ」 その言葉は怒っているものでなく心配の色が滲んでいて、赤也は嬉しくなる。 「雨止むの待ってたんスよ」 外に目を向けながらそう告げれば、相手は納得したように「ああ」と笑った。 まだ雨は止んでおらず、雨音が耳を叩く。 「傘を忘れたのか」 確信をついた柳の言葉に何も返すことが出来ない。なんたって図星なのだから。 「うす…」 ふてくされたように返せばまたクスリと笑われてしまった。それを見て少しムッとしたが文句の言葉が見つからない。 「仕方ないじゃないっスか、朝晴れてたし」 「天気予報は見ておくべきだな」 悪あがきで述べた言い訳すらさらりと流されてしまいいよいよ手段が無くなる。 そんな赤也などお構い無しに柳は自らの傘をさしていた。 …先に帰ってしまうのだろうか それは当然のことなのだけどもほんの少し寂しく感じる。 せっかく会えたのに自分が傘を忘れたせいでここでお別れ。何ということだろう。 柳の背中を見て肩を落とした赤也だったが、振り返った柳が「一緒に帰ろうか」と傘に一緒に入るよう示したことでばっと顔を上げた。 「え、え?いいんスか!」 「構わない」 柳の返事を聞いて傘の中に飛び込む赤也。 その中は中学生の男が二人入るには狭かったが、間近に相手の体温を感じることが出来る空間だった。 こんなことが出来るなら雨も悪いことばっかじゃないかもな。 赤也はこの日からほんの少し雨が好きになったのだった。 いったい赤也はどれくらいの間玄関口で寝ていたのか H23.09.16 back |