凍った心と温かい君

―ああ、また傷つけた。

俯いてしまった赤也を見てうっすらとそう思った。

何も感じない心が憎い、普通ならここで申し訳ない事をしたと反省するものなのではないだろうか。そう頭では考える事が出来ても、実際行動に移せるかとなれば話は別だ。
正直、面倒くさい。

「赤也、もういいか?俺は用がある」

そう感情もなく問うだけでびくりと揺れる身体。
それを見ても柳は大して何も感じなかった。
ああ、もしかするとどこか感情が欠落しているのかもしれないな。

暫く返事を待ったが、彼が全く何か言う素振りを見せないのでそのままその場を後にした。




「あーあ、参謀は酷いのー」

赤也と別れて暫く歩いた所で曲がり角の奥から声が聞こえた。

「何だ仁王、見ていたのか」

別段驚くでもなくそう返す。

「偶々通りかかっただけぜよ、それよりも」

角から出てきた仁王は意味深に柳の肩に手を置いた。

「いじめたなるのもわからんでもないが、そろそろ素直にならんと後悔する事になるぜよ?」

「…何のことだ」

仁王の言葉に眉を寄せる。何せ全く意味がわからないのだから。
俺が後悔?阿呆らしい。

「何じゃ、気付いてないなら別にかまわん。忠告はしたきに」

そう言い残してだるそうに仁王は立ち去ってしまった。
アイツは何がしたかったのか、やはり奴の考える事はわからない。

仁王の言葉を頭の中で繰り返していると、後ろから慌しい足音が1つ聞こえてきた。ああ、この足音は…

「あ!柳先輩…!」

やはり、声を聞いて振り返れば思っていた通りの人物がそこにいた。

「何だ、まだ何かあるのか?」

先程と変わらず冷たくあしらう。しかし赤也は悲しそうにしながらも真っ直ぐに此方を見ていた。
何ていい眼をしているのだろうと思った。

「…ッ、あの、俺やっぱり最後まで遣り切りたいっス!!だから、もう一回チャンスを下さい…!」

もう一度…。
何も感じていなかったはずの心に光が灯った気がした。ほんの少し、彼に期待するのも悪くないと思えたのだ。本当にほんの少しだけれど。

「仕方ない。だが次はないぞ?」

柳の言葉を聞いて、赤也は「はい!」と嬉しそうに返事をした。
その笑顔につられて笑みがこぼれる。

―ちょっとした気の迷いだ

この時感じた気持ちに柳はゆっくり蓋をした。


END



H23.09.05


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