あめのひ

家族が揃いも揃って家を空けていた日の夕方、どんよりとした空はついに大粒の雨で窓を叩き始めた。
どうしてこう調子の悪い日に限って降ってくるのだろうか。
意識の無いものに文句を言っても仕方ないのは分かっていたが、やはり何か文句を言ってやらねば気がすまない。
柳は知らず知らずのうちに溜息を零していた。
何もする事がなくて、ただじっと空を眺めてみる。
心のどこかで何かしなくてはという気持ちはあったのだが、行動に移す気力がなかった。働かない頭はこのまま外で雨にでも打たれたらすっきりするかもしれないなんて馬鹿な事を考え始めている始末だ。

―そうだ、家の掃除でもしてみようか

普段から母親がしてくれているのであまり汚れの無い家だがたまにはいいだろうと立ち上がった。
こんなのはあくまで気を紛らわせる以外の何物でもないと自分でも自覚している、ただ寂しいのだ。
柄でもないのは承知の上だが、やはり事実なのでどうしようもない。
こんな時、素直に恋人に連絡出来る可愛げを少しでも持っていればと思う。
そんな事を考えているうちに掃除は終わってしまった。元々あまり汚れていなかったのだ、そんなに時間がかかるはずもない。
結局先程と同じ状況に戻ってしまい途方に暮れたその時だ。
誰かの来訪を知らせる音が家中に響きわたる。
いったいこんな雨の日に誰だろうか?もしかしたら両親か姉かが通販か何かを頼んでいたのかもしれない、そんな事を考えながらゆっくりと玄関の扉を開けた。
「…はい、どちら様で」

「柳先輩ー!!」

その瞬間、戸の前にいたのであろう人物が飛び付いてきた。何が起こったのか理解しかねたが、目の前にある特徴的な癖毛を見てそれが見知った後輩だと認識できた。その髪はびっしょりと濡れている。

「赤也、急にどうしたんだ」

一向に離れようとしない赤也の背中をぽんぽんと撫でる。暫くそれを心地よさそうに受け入れていた赤也だったが「聞いて下さいよ!」と勢いよく顔を上げた。

「今日補習があったんスけど思いの外長引いて…やっと終わったと思ったらこの雨っスよ!しかもどしゃ降り!これ酷いと思いません?!」

興奮気味にそう話す赤也に「酷いのはお前の成績だ」と言わなかった自分を誉めてやりたい。また補習に引っ掛かったのかと頭を抱えながらも「取り敢えず風呂で温まっておいで」と声をかけた。
それを聞いた赤也は随分素直に「ウィッス!」と返事をして迷う事無く浴室に向かった。そんな赤也に思わず笑みがこぼれる。
きっと雨は今日中には止まないだろう、なら家族も今日は帰って来ないのだから赤也に泊まってもらうのもいいかもしれない。きっとあいつは喜んで頷くだろう。
賑やかになる家を思い浮かべて、柳はまた一つ笑みをこぼした。


END



雨の日って急に寂しくなったりするよねって話
H23.09.01


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