予定は未定
[7/10]
「なんだ九条、昨日もここに来ていたのか」
真田の声が遠くで聞こえる。それに同意しながら「俺は校舎内で見かけたな」という柳の声も聞こえた。
あの、柳さん。感謝していますけどこのタイミングでそれを言われてしまうと目の前で「お前何者?」と聞きたそうな幸村が黙っていてくれなさそうなので勘弁してください。
「へー?蓮二にも会ってたんだ。それはともかく何の用でテニスコートにいたの?」
ほら見ろ、幸村のこっちを見る目が更に厳しくなってしまったではないか。
そう理不尽な文句を柳にぶつけながら実里は愛想笑いをしたが、そんな事では見逃してくれそうになかった。隣の美咲ちゃんが心配そうに此方を見ている。美咲ちゃんごめんね転校早々心配かけて。
「いや、それはあのほら。女テニに入りたいなって思ってね?」
これは嘘ではなかった。ここで変に嘘をついてしまうときっとぼろが出てしまうだろうし、何せこれ以外の言い訳が思いつかなかった。大体気付いたらここのテニスコートにいたのだから自分に非など無いのではないかとすら思われる。しかしながら、部活中に勝手に部外者の自分がそこにいたのもまた事実だ。さぞ邪魔になったことだろう、あれだけ叫んでいたのだから。
そんな実里をじーっと見て幸村は「ふーん?」と首を傾げた。
まずい、これは信じていない。
「女子のテニスコートは違う方向だし、なら俺に名前聞く必要なんてなかったよね?」
実里はそれを聞いてしまったと心の中で頭を抱えた。避けるつもりがすっかり裏目に出てしまっている。
硬直してしまった実里に幸村は続ける。
「それにテニスバックも何も持ってきてないんだね、仮入部もする気なかったの?」
実里の机の横には今朝自宅になるであろう場所に置いてあった鞄しかかかっていない。
テニスバックは昨日どこかへ忘れてしまったからだ。
「えと、テニスバックは昨日どっかに落として…」
自分で言っていてもこれは苦しい言い訳にしか聞こえない。でもこれは真実だった。悲しい事に真実なのだ。さっきの嘘と本当が混ざった話ならともかくこれを信じてもらえないのは辛かった。しかし仕方ないだろう。
「…それは苦しいだろう」
幸村ではなく柳にそう言われてしまった。幸村はあまりに出来の悪いつくり話だとでも思ったのか笑っている。
「いやでもこれはほんとで…!」
「おーいたなり!!」
もうどうしようもなくなった実里が必死に伝えようとした声に被さって、新たな来訪者の喜びの色を交えた声が聞こえた。
「あれ、仁王じゃないか」
その声に真っ先に反応したのは幸村で、声の主を確認すると「珍しいな」と笑った。その笑顔に先ほどまでの黒さは無い。
「幸村、ごめんじゃが今日は別のヤツに用があるんぜよ」
「別のやつ?」
仁王の言葉を反復する幸村に、彼は手に持っていたものをこれじゃと持ち上げた。
それは紛れも無い実里のテニスバックである。
「ああー!!私のテニスバック…!」
先ほどまで小さくなっていたヤツとは思えない威勢のよさで実里は立ち上がった。それを見て仁王はにやりとする。
その様子を確認して場の状況を把握できたのは柳だけだった。
「なるほど、昨日仁王が探していたバックの少女とは彼女だったのか」
一人で勝手に納得している柳に仁王はそうじゃよと楽しそうに返した。
そう、仁王はあの後柳に持ち主の名前を柳に見せていたのだ。しかし転入生の情報までを柳が持っているはずも無く、それは「調べて置こう」という柳の言葉で終了していた。
そんなことを実里が知るはずがない。
何故仁王が自分のものを持っているのか、それだけで精一杯だった。
「なんでバックをあんたが…」
「お主が昨日忘れて行ったぜよ」
自分の注意力の無さを後悔した瞬間だった。
しかしこれで幸村も実里が「女テニに入りたくてテニスコートにいた」と言っていたのを信じてくれたらしい。不幸中の幸いとは正にこの事である。
「なんだ、無くしたっての本当だったんだね。責めてごめん、女テニにはいるなら頑張ってね」
幸村から応援の言葉を貰った。嬉しいのか何なのか、とても複雑な気分だ。
しかしまあ取り合えず、テニスは好きなのだ、例え女テニに入っても苦になることはないだろう。
これで何とか開放される、そう思った実里だったがそんなにうまくはいかなかった。
「えー?女テニに入るんなら男テニのマネージャーすればよか」
この仁王の言葉に驚いたのは実里だけではない。その場にいた3強までもが固まっていた、何を言い出すのかと。
自分はサポートしたいのではない、打ちたいのだ。彼はそれをわかっていない。
「え、いや私打ちたいからマネはちょっと…」
苦笑いしながた断る実里に他の3人もそれは道理だと頷いた。しかし仁王は引き下がらなかったのだ。
「男テニのマネやってればオレらと打てるし楽しか」
実里の気持ちが揺らめいた。
確かに、仁王なんかとテニス出来ればさぞ楽しいだろう。強いボールの打ち合い、コートに響く打球音。
「私男テニのマネやる」
そんな勧誘で入るわけがないと高をくくっていた3人の期待を裏切って、実里はいとも簡単に自分の意見を曲げたのだった。
「私男テニのマネやる」
そんな勧誘で入るわけがないと高をくくっていた3人の期待を裏切って、実里はいとも簡単に自分の意見を曲げたのだった。
真田の声が遠くで聞こえる。それに同意しながら「俺は校舎内で見かけたな」という柳の声も聞こえた。
あの、柳さん。感謝していますけどこのタイミングでそれを言われてしまうと目の前で「お前何者?」と聞きたそうな幸村が黙っていてくれなさそうなので勘弁してください。
「へー?蓮二にも会ってたんだ。それはともかく何の用でテニスコートにいたの?」
ほら見ろ、幸村のこっちを見る目が更に厳しくなってしまったではないか。
そう理不尽な文句を柳にぶつけながら実里は愛想笑いをしたが、そんな事では見逃してくれそうになかった。隣の美咲ちゃんが心配そうに此方を見ている。美咲ちゃんごめんね転校早々心配かけて。
「いや、それはあのほら。女テニに入りたいなって思ってね?」
これは嘘ではなかった。ここで変に嘘をついてしまうときっとぼろが出てしまうだろうし、何せこれ以外の言い訳が思いつかなかった。大体気付いたらここのテニスコートにいたのだから自分に非など無いのではないかとすら思われる。しかしながら、部活中に勝手に部外者の自分がそこにいたのもまた事実だ。さぞ邪魔になったことだろう、あれだけ叫んでいたのだから。
そんな実里をじーっと見て幸村は「ふーん?」と首を傾げた。
まずい、これは信じていない。
「女子のテニスコートは違う方向だし、なら俺に名前聞く必要なんてなかったよね?」
実里はそれを聞いてしまったと心の中で頭を抱えた。避けるつもりがすっかり裏目に出てしまっている。
硬直してしまった実里に幸村は続ける。
「それにテニスバックも何も持ってきてないんだね、仮入部もする気なかったの?」
実里の机の横には今朝自宅になるであろう場所に置いてあった鞄しかかかっていない。
テニスバックは昨日どこかへ忘れてしまったからだ。
「えと、テニスバックは昨日どっかに落として…」
自分で言っていてもこれは苦しい言い訳にしか聞こえない。でもこれは真実だった。悲しい事に真実なのだ。さっきの嘘と本当が混ざった話ならともかくこれを信じてもらえないのは辛かった。しかし仕方ないだろう。
「…それは苦しいだろう」
幸村ではなく柳にそう言われてしまった。幸村はあまりに出来の悪いつくり話だとでも思ったのか笑っている。
「いやでもこれはほんとで…!」
「おーいたなり!!」
もうどうしようもなくなった実里が必死に伝えようとした声に被さって、新たな来訪者の喜びの色を交えた声が聞こえた。
「あれ、仁王じゃないか」
その声に真っ先に反応したのは幸村で、声の主を確認すると「珍しいな」と笑った。その笑顔に先ほどまでの黒さは無い。
「幸村、ごめんじゃが今日は別のヤツに用があるんぜよ」
「別のやつ?」
仁王の言葉を反復する幸村に、彼は手に持っていたものをこれじゃと持ち上げた。
それは紛れも無い実里のテニスバックである。
「ああー!!私のテニスバック…!」
先ほどまで小さくなっていたヤツとは思えない威勢のよさで実里は立ち上がった。それを見て仁王はにやりとする。
その様子を確認して場の状況を把握できたのは柳だけだった。
「なるほど、昨日仁王が探していたバックの少女とは彼女だったのか」
一人で勝手に納得している柳に仁王はそうじゃよと楽しそうに返した。
そう、仁王はあの後柳に持ち主の名前を柳に見せていたのだ。しかし転入生の情報までを柳が持っているはずも無く、それは「調べて置こう」という柳の言葉で終了していた。
そんなことを実里が知るはずがない。
何故仁王が自分のものを持っているのか、それだけで精一杯だった。
「なんでバックをあんたが…」
「お主が昨日忘れて行ったぜよ」
自分の注意力の無さを後悔した瞬間だった。
しかしこれで幸村も実里が「女テニに入りたくてテニスコートにいた」と言っていたのを信じてくれたらしい。不幸中の幸いとは正にこの事である。
「なんだ、無くしたっての本当だったんだね。責めてごめん、女テニにはいるなら頑張ってね」
幸村から応援の言葉を貰った。嬉しいのか何なのか、とても複雑な気分だ。
しかしまあ取り合えず、テニスは好きなのだ、例え女テニに入っても苦になることはないだろう。
これで何とか開放される、そう思った実里だったがそんなにうまくはいかなかった。
「えー?女テニに入るんなら男テニのマネージャーすればよか」
この仁王の言葉に驚いたのは実里だけではない。その場にいた3強までもが固まっていた、何を言い出すのかと。
自分はサポートしたいのではない、打ちたいのだ。彼はそれをわかっていない。
「え、いや私打ちたいからマネはちょっと…」
苦笑いしながた断る実里に他の3人もそれは道理だと頷いた。しかし仁王は引き下がらなかったのだ。
「男テニのマネやってればオレらと打てるし楽しか」
実里の気持ちが揺らめいた。
確かに、仁王なんかとテニス出来ればさぞ楽しいだろう。強いボールの打ち合い、コートに響く打球音。
「私男テニのマネやる」
そんな勧誘で入るわけがないと高をくくっていた3人の期待を裏切って、実里はいとも簡単に自分の意見を曲げたのだった。
「私男テニのマネやる」
そんな勧誘で入るわけがないと高をくくっていた3人の期待を裏切って、実里はいとも簡単に自分の意見を曲げたのだった。
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