さよなら私の日常 | ナノ

この展開は予想外
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あの2人のおかげで登校時間内に立海に着くことが出来た。
校門を抜けそのまま昨日柳に案内してもらった校舎に向かう。目指す場所は職員室だ。
昨日連れて行ってもらった保健室の更に奥にそこはあった。
扉の前で一度大きく深呼吸してからノックする。そのまま扉を横にスライドさせれば気持ちのよい冷風が実里を包んだ。…節電はどうしたのだ節電は。

「すいません、今日転入の九条実里なんですが…」

恐る恐る部屋の中に首をつっこみそう訊ねると、「おお来たか!」と若い男性が手を挙げて実里を手招きした。
その様子に実里は素直にそちらへ向かう。

「いやいや無事に来てくれて嬉しいよ、俺は今日から君が入る2−Aの担任の三河だ。もうすぐHRも始まるし一緒に行くか!」

手を差し出しながら明るく自己紹介する三河にゆっくりと自分も手を差し出す。
触れた温度はとても温かく、自分が可笑しな現象に巻き込まれている事など忘れてしまいそうだった。

「はい!よろしくお願いします」

もうこのまま何も起こらず帰らせてくれればいい、そう思った。
しかし現実はそう甘くはない。それを実里は数分後に思い知る事になる。





―どうしてこうなった…

この言葉を教室についてから実里はかれこれ両の手で数えられないほど繰り返し心の中で呟いていた。
事の発端といえば担任についてこの教室に入った辺りだ。いや根本的にはこの世界に来た事なのだけれどまあそれはおいといて。
私、九条実里は訊ねたい。なんで2年の教室に真田弦一郎がいるのでしょうかと。

そう、今自分が座っている丁度真横には真田が座っていた。
記憶の中の真田と言えば3年であったはずであるのに意味が分からない。
もしかすると時間軸が彼らが2年生のときのものなのだろうか、いやきっとそうなのだろう。だって隣にいる真田ちょっと若いんだもん。あ、失礼だから今のは内緒で。

「えっと、よろしくね?」

まだ三河先生が前で何かしら準備をしており授業は始まっていなかったので取り合えず話しかけてみることにした。これぐらいなら転入生として普通だろう。

「む?ああ、よろしく」

「うん」

「…」

「…」

あれ、これはおかしい。普通ここで名前名乗って取り合えず友達にって雰囲気になるだろうに会話が途切れてしまった。どうしたものか。
暫く真田の顔を見ていた実里だったが結局諦めて逆サイドの女の子に声をかける。

「これからよろしくね」

「うん、よろしく!私美咲っていうのよろしくね!好きに呼んで?」

「ありがとう、私のことも好きに呼んでね」

そう、これである!これが始めての会話ってヤツではなかろうか。
まあそれを真田に求めた私も悪いのだろうけども納得できない。

やがて授業開始のチャイムが鳴って生徒達はわらわらと席についていった。4限目の授業も終わり昼休みに入った。
今朝きっちり作ってきたお弁当を机の上に広げる。マンションに設置された冷蔵庫の中にはご丁寧にたくさんの材料が入っていたので、今日はそれを使ってお弁当を作ったのだった。
それにしてもこのクラス人が多すぎやしないだろうか?人口密度が半端ない事になっている。みんなもっと別の場所で食べればいいのにと切実に思う。

「実里!一緒に食べようよ!」

教室の異様な熱気に戸惑っていると、横から声が聞こえた。
隣の席の美咲ちゃんが優しい事にお昼を共に食べてくれるようだ。実里はその言葉に甘えて机を寄せる。
その時教室の扉ががらがらと開き室内に女子の黄色い声が響いた。それに驚き振り返るとそこには昨日見かけた姿があった。

「さーなだ!お昼食べよう!」

とても上機嫌で入ってきたのは昨日テニスコートで見かけた幸村精市である。
瞬間、私の脳内のブラックリスト機能が火を噴き素早い動きで頭が逆サイドを向いた。
嫌だ関わりたくない。

「こら精市、そんなに勢いよく扉を開けるな」

続いて入ってきた声に実里の眉がぴくりと動く。そしてゆっくりと後ろを確認すれば案の定昨日迷子の実里を助けてくれた柳の姿がそこにはあった。

…なんだこのクラス。

昼休みに3強が勢ぞろい。色々なクラスから人が集まっているとは思っていたがこれが目的か。
実里は大きく溜息を吐いた。そういえばトリップってやつはこういう運命だった気がする。これが大好きなキャラのいる氷帝なら大喜び出来ただろうに。

「実里大丈夫?」

顔色の優れない私を心配してか美咲ちゃんが顔を覗き込んできた。そんな彼女を心配させないように「大丈夫だよ」と笑いかける。うん、美咲ちゃんは優しいんだね、いい子。

「凄いでしょ、このクラス。テニス部エースの3人が昼休みにここに集まっちゃうからいつもこんなんなんだー」

先程理解した状況を美咲ちゃんが再度繰り返してくれた。
もっと早く教えてもらえていればきっと自分は外で食事をとっただろうに。

「…あれ?俺の席無くなっちゃってる」

そんなことを考えていたらすぐ後ろで幸村の声が聞こえた。
実里の体が強張る。すぐに後ろを振り返ればそこには顎に手をあてて「おかしいな」と首を傾げる幸村の姿があった。
え、俺の席ってもしかして私が座ってるこの席の事でしょうか?
確実にそうであろうがどういうことなのか、急な事に実里は動けなかった。幸村の不審な目が実里を射抜く。

「ああ幸村、そこは今日から転入生の席になったのだ。他を使ってくれ」

後ろからの真田の声に救われた。それを聞いて幸村は合点がいったようだ、その証拠に真田の1つ前の席に腰を下ろしている。
ホッとしたのもつかの間、お弁当のおかずに実里が箸を伸ばしたと同時に幸村が口を開いた。

「そういえば君さ、昨日テニスコートにいたよね」

…実里の思い空しく、幸村は気付いていたようだ。
それを聞いた真田と柳までもが実里に顔を向ける。

どうやら実里がここで平穏な生活を送る事など、たとえ天と地がひっくり返ったとしても無いらしかった。


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