好きなくせに馬鹿みたい





俺と蓮二の関係と言うやつは昔からあまり変化していないように思う。
それは4年と2ケ月と12日ぶりに試合をしたあの日から感じていたことだ。
突然の別離は俺と蓮二の間に大きな亀裂を生んだかもしれないが、それは俺達の距離を大きくするようなものではなくて(少なくとも俺はそう思っている)ただちょっとした障害、言うならば料理におけるスパイスのようなそれだと思った。

幼い頃、ダブルスを組んでいたというのもあったがやはり気があったという理由から俺達はよく一緒に遊んでいた。小学校こそ違うとはいえ、テニススクールに行けば顔を合わせる相手。スクールが終わってから寄り道をして帰るということはもうそれこそ毎回やっていたし、何より楽しかった。
子供だからこそ出来たこと、それは例えば近くの大学に忍び込んだりすることなのだけれどそういった冒険を共にした俺達の関係は、どこか兄弟に似たものになっていたのだ。
そこにいて当然の存在。ずっと一緒にいるわけではないけれど、それでもどこかで繋がっているような。

そんな蓮二と離れてみて1つ気付いた事がある。

それこそが俺があの期間を"スパイス"と例えた理由なのだけれど。
何も告げられず、置いていかれた当初はそりゃ様々な疑問がぐるぐると俺の中を回っていた。どうして俺に何も言ってくれないのかとか、何であの日来てくれなかったのかとか。
けれど月日が経つにつれ、俺の中に少しずつ余裕が生まれてきた。
そう、蓮二のことを考える余裕が。

思い出してみれば蓮二は初めから不器用だった。

冗談で言う簡単な嘘ならうまくつくというのに、いざ自分のための嘘をつくとなるとわかりやすい程に表に出てしまったり、人の気持ちを汲み取るのが得意だというのにだからこそ他人のちょっとした行動からその心の裏にまで神経を使う…そんな奴なのだ、蓮二は。

そんな彼が、俺に「引っ越す事になった」などと告げることなど出来るはずがない。人一倍臆病なのかもしれないな、あいつは。
そう考えてみれば、無言で俺の下を去ったのだって納得できた。
あの頃、どんな感情も素直に蓮二にぶつけていた俺が泣き付く可能性だって少なくなかった。
彼のあの選択は、考えようによっては俺にとっても最良だったのかもしれない。
あの時、蓮二が何を考えていたのかなんて俺には知る由もないけれど。

ただ1つ言えること。

俺はあの頃から蓮二のことが好きだったのだ。
近過ぎて気付かないものもある、だなんてよく言ったものだと思う。正にその通りだ。
なんたって俺がこの気持ちに気付いたのは蓮二が去ってから随分経ってからだったのだから。

これは俺にとって大きな変化だった。

パートナーではなく、次に会うときには好敵手となるだろうことは予測出来ていた。だからこそ次に会うまでにあいつに負けない力を付けたい。負けたくなどない。男としてもそう思った。

そして迎えた関東大会決勝。
あの日の決着がついたその日。
俺はあの決着に加えてもう1つの決意を胸に抱いていた。

なあ、蓮二

好きなのに伝えないなんて、そんな馬鹿なことはないだろう?

そんな事、寝ているお前に言っても仕方ないかもしれないけどね。

隣で寝ている蓮二が、答えるように身動ぎした気がした。

END


H24.04.18

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