教室の窓から見える運動場を見下ろせば、体育を受けている生徒の姿を確認する事が出来た。
その中にずっと自分が好意を寄せている人の姿を見つけて、自然と目で追い掛ける。たとえどんなに遠目であったとしても、あの人の姿を見付ける事など自分にとっては簡単な事だ。
長身でスラッとしている大好きな先輩は、どうやら俺の視線に気付いたらしい。
顔を校舎へと向けたその人と目が合った。
俺の気のせいでは無いだろう。少し怒った気味の先輩が口を動かしたのが見えたから。
距離があったので確信はないが、恐らく「集中しろ」とかそんな感じの事を言っていたに違いない。あの人はきっと今俺が受けている授業が英語だと知っているのだろう。
眠くなる授業。集中しようにもすぐに飽きてしまう授業ではあるが、それでも運動場にいる先輩の言葉を無視するわけにはいかない。
俺はちゃんと先輩にも見えるように顔の前で手を合わせて「すみません」を伝えた。
それを確認した先輩はわかれば良い、とでも言うように笑って授業へと戻って行く。そんな先輩の後ろ姿を見送りながら、俺は顔がにやけるのを必死で抑えていた。
「あの後はちゃんと授業を受けただろうな?」
放課後の部活前。いそいそと着替えていた俺に柳さんはそんな風に声を掛けた。
何の前振りも無い突然の事だったので一瞬何の話か分からなかったが、直ぐに先程の英語の授業の事だろうと思い当たって「勿論っスよ!」と返答する。
事実を言えばちょっと嘘だったりするけど。それでも普段よりは大分真面目に受けていたのだから自分としては褒めてもらいたい位のものだった。
そんな俺の答えに、柳さんは「そうか」と短く返す。
その淡白な感じが面白く無くて、俺はあからさまに不機嫌オーラを出した。柳さんはそれに気付かないような人じゃない。直ぐに俺の変化に気付いて「赤也?」と首を傾げた。
この人は、こんな事には敏感なのに自分に向けられている感情には気付かないんだから酷い話だ。
まあ、俺がこの人に懐いているだとか、そんな事は知っているのだろうけど。
確かに俺がこの人に抱いている感情は部活の先輩後輩間には芽生えることも無いはずのそれだ。でも、ここまで脈が無いと何というか、男としては悔しいではないか。
「柳さん」
「何だ」
じっと何も言わず無言で柳さんを睨み上げていた俺にただそう静かに返す先輩。
その余裕を崩したいと思った。
そう思い立った俺は、隙だらけだった柳さんの胸元を思いっきり引っ張って柳さんのそれに自分のものをくっつけた。
触れ合うだけのそれを、柳さんが呆気に取られているうちに中断して部室の扉辺りまで移動する。
振り返って柳さんの顔を見れば口を抑えて立ちすくんでいた。
「柳さん。俺、柳さんが好きなんスよ」
完全に順序が逆になってしまった。
しかし、普通に告白しても軽く流されることは想像出来ていたのでこれ位が調度い良かったのかもしれない。
ねえ、柳さん。俺のこと意識しちゃってくださいよ。
言い残して部室を立ち去る。最後に見た柳さんの顔が、何処か赤くなっていたように見えたのが気のせいなんかじゃ無ければいいのに。
ENDH24.01.26
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