どうしよう隠し切れない





認めたくない想いとはあるもので。

今俺が抱えている気持ちだってそうだ。この俺がこんなにも女々しくなってしまっている。
全部全部あいつのせいじゃ。

…まさか、この仁王雅治がたった1人の人間の行動に一喜一憂する日が来るなんて思ってもいなかった。

その事実だけでも一大事であるというのに加えて、おれが想いを寄せとる相手は絶対に一筋縄ではいかない。断言できる。

だって、今俺が想いを寄せとる相手はあの3強の1人であり、我が立海の参謀様である柳蓮二なのだから。

もし、相手が参謀以外であれば、まあうちの部長も厳しいか、その2人を除いた人物であれば俺が普段公言しているように「相手から告白させる」を実行していたであろう。しかし今回、それを行い成功させる事は極めて難しい。
希望が無いわけではないかもしれないが、まず脈が無い。寧ろ自分は参謀に嫌われているとさえ思う。そんな気しかしない。そんな相手に好いてもらい、尚且つ相手から告白をもらうとなれば流石の俺も心が折れる。途中で気付かれ哀れむように此方を見る参謀が容易に想像出来た。無理じゃ。下手したら此方から告白するという事態になりかねない。
俺のプライドの為にも、それだけは避けたかった。

だから、考えに考え抜いて参謀と恋仲になるのは諦めたというのに。
何なのだこの状況は。

練習終わりの、少し熱気の残った部室。
そこには俺ともう1人、俺が今一緒にいたくない自分の姿があった。
参謀は、何時も通りデータを整理するために残っている。そして、俺はと言えば忘れてしまった持って帰らなければいけないものを一度教室まで取りに行き、何だかんだという内に置いて帰られた口だ。
まさかの柳生まで先に帰ってしまったのは予想外であったが、とりあえず、まずは一刻も早く外に出たいという願望の強さ。

さっと着替えを済ませて鞄を背負う。「じゃあの、参謀」と帰ろうとした俺に、参謀は「待て仁王」と声をかけた。

…しまった。何も言わずに帰っていれば良かった。後悔先に立たずとはよく言ったものだ。


「…何じゃ?」


自分の焦りを悟られないように、冷静にそれだけを返す。机に向かった参謀は相も変わらずにノートにへと視線を落としていた。
暫く沈黙が流れて、もしや用は無かったのでは無いかと思い出す。参謀はそのタイミングを狙ったかのように再び口を開いた。


「最近、集中が乱れていると感じられた」

「…俺のことかの?」

「お前以外に誰がいる」


当然だとでも言いたそうな様子に少し眉が動いたが、今はそんなことをいちいち気にする余裕は無い。
俺としたことが、無意識の内に行動にまで表れていたらしい。


「別に、気にする事ないぜよ」

「そうは行かないだろう。レギュラーがそんな状態では他の部員の士気に関わる」

「流石参謀、雰囲気作りからとは抜かり無いのう…」

心の中でため息を吐く。
こう言う時、相手が参謀だと色々と厄介だ。


「…何か悩みがあるなら、特別に俺が相談に乗ってやってもいいぞ」


俺の心情などお構い無しに、参謀はそう言って此方を向いた。


「解決した時の見返りが怖いから遠慮するぜよ。それに、大丈夫じゃ」


お前さんに相談なんて出来るわけないじゃろ。原因その人なんじゃから。


「心当たりがあるのか?」

「ああ、気を付ければ問題無いきに」


これは嘘。まさか原因はそのお前じゃだなんて言えるわけがない。参謀の事を目で追っ掛けてたら集中切れてましただなんて情けなさすぎる。真田にたるんどると怒鳴られるレベルだ。


「…ほう。そうか、ならいい。部活中にボール以外のものを追い掛けているというのはいけないからな」

「俺は別にお前さんを追い掛けてるわけじゃ…」

「そんな事は一言も言っていないが?」

「!」


ばっと参謀を振り返った。しまった、やってしまった。

ふ、と勝ち誇ったように参謀が笑っとる。

普通の奴がやれば反感を買いそうなその行動も、何故か参謀にされると顔に熱が集まるのだからたまったものではない。

じっと此方を見つめる視線に堪えられなくなって、さっと目を逸らす。
しかし視線が途切れる事はなかった。そんなに見ないで欲しい。心臓の音がうるさい、時間がゆっくり流れて行く。

ああ、もうだめだ。
隠し切れない。
(詐欺師が騙しきれないなんて)


「…俺の負けじゃ、参謀」

「漸く認めたか。…それで?」


柳の耳元へと口を寄せ呟けば、「上出来だ」と参謀は満足そうに俺の頭を撫でた。

END


H24.01.15

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