好きじゃと告げれば、彼は相変わらず困ったような顔をして笑った。
そうして次にはこう返すのだろう、「ええ、私もですよ」と。
「ええ、私もですよ」
あまりにも想像通りの答えにいっそ笑えてくる。表情になんて決して出さないけれど。
出そうとも、思わないのだけれど。
そうして俺は今日も決まってこう返すのだ。
「じゃー柳生ーと俺はりょーおもいじゃの」
なんて。
そこに相手と自分の気持ちのズレが生じてるなんてこんなやり取りが始まった当初から気付いていた。
1度だけ、本当に女子に迫るようなそんな雰囲気を作り出して告げてみたのだけれどその時ですら柳生の表情は相変わらずの困り顔で。
まるで、そうだまるで親が駄々っ子をあやす親のような顔をして笑うのだ。
困ったように眉を垂れながら「仕方の無い人ですねえ、急にどうしたんです?」と言外に含まれているような笑い方で「私もですよ」と返してくる。
その時、何度伝えようと言葉にしようと行動に移そうと想いが届かないことを悟った。
ああ、この目の前の紳士はなんて残酷なのでしょうか。
「…だからもう諦めろと言っているのに」
翌日の部活終わり。
部室にある机に項垂れていた俺を見かねた参謀がファイルを整理しながらそう話しかけてきた。顔だけを動かして低い視点から参謀を見上げる。
「…なんのことじゃ」
参謀相手にぼやかす事なんて出来ないだろうけれど、そんなことわかっていても素直に打ち明けられるはずもない。
そんな俺の心情を知ってか参謀は、はあと溜息をついた。
「今更とぼけても無駄な事は分かっているんだろう?」
…そうじゃ、わかっとる。理解なんて痛いほどよおしとる。
心の中でそう返事を返して、口は何の音も発せずにただただ薄い笑みを浮かべて参謀のことを見るだけ。
参謀はもう何も言わなかった。
何も言おうとしない俺を更に諭すでもなく、馬鹿だと罵るでもなく俺も見下ろしていた。
参謀の目が見えていたなら、その瞳には何が映っていたのだろうか。
ENDH24.10.10
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