もういっそ夢だと思いたかった。 頭を抱える俺を見上げるのは俺が愛してやまない後輩にそっくりなねこ。 そっくり、そうだなそっくりだ。 まるで赤也をそのまま小さくしたみたいな姿。 …まさか俺が「アカヤ」だなんて名前をつけたからこんなことになっているのか? 俺は過去の自分を叱咤した。それで状況が変わるわけでもないのだけれど。 取り敢えず、だ。 「母さん達に何て説明すればいいんだ…」 現在時刻は6時前。 そろそろ降りて行かないと不審に思われてしまう。 しかし、この子の事を何と説明する? 流石に黙ってアカヤだけをこの部屋に閉じ込めておくわけにもいくまい。それはあまりにも可哀想だ。 「…アカヤ」 「にゃんですか?」 …ああ可愛い。外見は本当に赤也を小さくしたみたいだ、直ぐにでも抱きしめた…違う。落ち着け柳蓮二。 先ずはこの先のことだ。 首を傾げたアカヤに危うく現状を忘れそうになった俺は慌て首を振った。 「アカヤ、俺は学校に行かなければならない。留守番出来るな?」 「がっこう…?」 アカヤの目が不安そうに揺れる。 「やっ!いっしょにいくっす!」 だんだんとベッドの上で跳ねて駄々をこねるアカヤ。 「そうは言っても…お前は学校に行っても仕方ないだろう?」 「…………」 そんな目で見ないでほしい。 まるで置いてかないでとでもいうような瞳。 「やにゃぎしゃ…」 「わかった」 パアッと笑顔になるアカヤ。俺は本当に甘いらしい。 「着替えておいで、俺の小さい頃の服があるから」 こくこくと懸命に頷く姿に笑みがこぼれる。 アカヤはタンスの引き出しをあさり始めた。 こうなっては仕方あるまい。弦一郎には連絡を入れておいた方がいいかもしれない。それと、赤也にも。 ここまで考えて俺は重要なことを忘れていることに気が付いた。 そう、昨日の昼休みの件だ。 いくら何でも色々と厳しいものがあるだろう。 弦一郎じゃなくまず赤也に連絡しよう。それが一番だ。 思い立ち机の上に置いておいた携帯に手を伸ばす。 そして新規メールを作成するためにアドレスを探していたところで俺はある事に気が付いた。 「……?」 赤也のアドレスが、無い? prev / next [ back to top ] |