翌朝。 俺は腹の上を押さえ付けるような圧迫感で目を覚ました。 まるで人の子が上に乗っているかのような重量感。 一瞬姉がふざけているのかと考えたが、もういい大人であろう彼女がそんな事をするとは考えられない。 真実を知るためにも、俺はまだ重い目蓋を持ち上げた。 その時自分の視界に入ってきた光景により、俺の頭を急速に覚醒へと向かう事になる。 いや、だってこれは…。 「にゃあ」 自分の上に乗っていた少年が、小さくそう鳴いた。 少年の頭にはぴくぴくと動く耳、そして後ろではゆらゆらと長い尻尾が楽しそうに揺れている。 「……は?」 いやいやいや。よく思いだせ柳蓮二。 誰だこの子は。いや、心なしか髪がもじゃもじゃとうねっているあたり赤也にそっくりだが、しかし幼い。 外見で言えば小学校に上がるか上がらないかぐらいの年頃であろう。 それも何だ、この耳と尻尾は。誰がさせたんだ悪趣味な。 「すまない…何処から入ってきたんだ?」 「にゃあ」 「いや、にゃあじゃなくて」 少しばかり冷静さを取り戻し始めた俺は少年に問い掛けた。しかし返ってくるのはふざけてるとしか思えないねこの真似事ばかり。 「困ったな…」 何処の子かとも分からない少年をこのままにしておくわけにはいかない。 しかし唯一の手掛かりである当の本人はまともに喋ってくれないときている。 俺にどうしろというのだ。 取り敢えず、いつまでも上に乗られていては堪らないとその子供をベッドの横に降ろそうとしたところで今までと違った言葉が聞こえてきた。 「はなれるのやー!」 足をばたばたしながら暴れる彼。 脇の下を手で持ち上げていた俺はその反動でそのままその子を落としてしまった。 次いで襲ってくる衝撃。 俺は意識が遠くなった気がした。 「ぐふっ…!…君は本当に」 「ひとりやーの!」 「…はあ」 ぎゅっと抱きついてくる身体を撫でてやると、嬉しそうに更にしがみついてくる。 暫くはそうしていたが、何時までもこのままというわけにもいかない。少年が落ち着くのを待って身体を離した。激しい抵抗は無い。 ゆっくりと息を吐いてから俺は疑問を投げ掛けた。 「君の名前は何ていうんだ?」 きょとんと俺を見上げる子ども。 それでも次の瞬間にはにぱっという効果音が似合いそうな笑顔を浮かべてこう答えた。 「あかや!」 納得と困惑。 俺は頭が痛くなるのを感じた。 prev / next [ back to top ] |