家族は思いの外すんなりと子猫を飼うことを許してくれた。 滅多にわがままを言わない俺が子猫を飼いたいと頼み込んだことには驚かれたが、しっかりと面倒を見るという約束を交せば首を縦に振ってくれたのだ。 自分の部屋に寝かしていたねこの様子を見れば、その子は未だ苦しそうに毛布の上に横たわっている。 そのねこの近くへと買ってきた猫缶を食べやすいように器へ移したものを置いた。 ぴくりと耳を動かしたねこは恐る恐るだが、ゆっくりとそれに近づいてゆく。 やはりお腹がすいていたようだ、食欲がある事を確認出来た事によって俺の心に少しの安堵が訪れた。 もじゃもじゃの毛を持ったねこがはぐはぐと食い付いている。 その一生懸命な姿が微笑ましくて、自然と笑みがこぼれた。この様子なら直によくなるだろう。 と、必死に器の中のものを頬張っていたねこの目と視線が重なった。 その目が、とても真っ直ぐな目をしているように感じて―― 今日昼休み以降顔を見ていない赤也の事を思い出した。くるくるとした毛並みがあの子に似ている気がする。 「……あかや」 呟くようにそう音を紡げば子猫が顔を上げた。 動揺のあまりまともに顔を見れなかったあの子の名。似ているというだけで同じ名前を付けるなんて虚しい気もしたが、しっくりくると思った。 「お前の名前はアカヤだ」 言い聞かせるように再度名前を言えば、それに答えるように子猫はにゃあと鳴いた。 食べ終わったのか擦り寄ってくるアカヤ。 その頭を優しく撫でてやればもっとと言わんばっかりに手に押しつけてくる。 「……明日は赤也に謝らないといけないな」 それに答えながらアカヤに訪ねるような形で独り言を言う。 言葉が分かるのか否か、アカヤは再びにゃあと鳴いた。 prev / next [ back to top ] |