ある昼休みのこと。 いつもの様にテニス部レギュラーで集まって昼食を食べていた時にそれは起こった。 「もう何なんスか!そんなのまだに決まってるっしょ!」 立ち上がりながら顔を真っ赤にして怒る赤也。 その原因は仁王で、赤也の反応を見る限り、恐らくまだ陽は高いというのに下世話な話題を持ちかけたのだろう。 その証拠に怒っている赤也を見ても仁王はにやにやと何か企んだ笑みを浮かべるばかりだ。 「ほー、お前さん意外と奥手じゃったんじゃな。すぐ手を出すタイプだと思ってたなり」 「もう!アンタと一緒にしないでくださいよ!大体俺と柳先輩は………あ」 仁王のセリフからするに、していた話の内容は予測出来た。しかし、赤也の返答を聞いて話に参加していない俺が固まる羽目になる。 待て、赤也。今何を口走った? 俺と赤也は確かにそういう事をしても可笑しくない関係だ。 しかし、問題はそこでは無くて俺達が男同士だという点にある。俺自身は確かに世間体はあるが、自分の気持ちが一番だと思っている。 だが、他の人はどうだろうか? ああそうなのと受け入れられる人間は少ないだろう。 だからこそ付き合う事になった時に「他言無用だ」と釘を刺したというのに。 口を滑らせた当の本人はと言えば口を押さえてあからさまにしまったという顔をしている。 それでは色々ともろバレだろう、馬鹿者め きっと今のでお前が部活中に散々自慢していた「恋人」の正体が俺だとバレたぞとか、俺の配慮はどうしてくれるんだとか、そんな赤也への文句が頭の中を過ぎて行った。 けれどそれは俺が動揺を隠しきれていない事の表れで、この現実を受け入れたくないが為に頭はいかにして現実逃避をはかるかということにフル回転している。 赤也の言葉を聞いてきょとんとした皆の視線が痛い。 「…っ、悪いが用を思い出したので失礼させてもらう」そんな視線を受け続けるのは余りにも居たたまれなくて、俺はその場を立ち去る事しか出来なかった。 ああ、俺も赤也の事は言えないな。これでは事実だと言っているのと変わらないでは無いか そうは理解していても止まらない足。 「柳先輩!」 階段を下り始めた所ではっとしたような赤也の声を聞いた気がした。 prev / next [ back to top ] |