昨日あった全ての事を弦一郎に話し終えれば、成程と頷きながらも難しい顔をしていた。 「話しはわかったが…その、赤也とかいう後輩は知らんぞ」 「何?」 赤也を知らないとはどういう事だ? 「記憶に無いのだが…蓮二の気のせいでは無いのか?」 「それはない」 俺が即答すれば弦一郎は困ったように眉をひそめた。 「そうは言っても…っ?」 弦一郎の視線が足下へと落ちる。何事かと思って俺も視線を下へと目を向ければ、そこには弦一郎の足にしがみ付くアカヤの姿があった。ぎゅっと必死にしがみ付く姿は、まるで自分の存在を認めて欲しいと言っているようだ。 「アカヤ、ここにいるっすよ」 じっと弦一郎を見上げて訴えるアカヤに、弦一郎は一瞬「う…」とたじたむ。 暫く睨み合う2人をどうなるのかと見つめていれば、どうやら弦一郎の方が先に折れたようだ。そりゃこんな純粋な目で見られたら折れてやりたくもなると言うものだ。アカヤ可愛い。 しかしアカヤは勘違いしているようだが、俺と弦一郎が言っている赤也とアカヤは別人だ。いや、アカヤは猫な訳だが…。 「うむ…まあこの少年が猫だと言うのは認めよう…腑に落ちんが」 「まあ事実だからな」 「それと何だ?まだあるのだろう?」 弦一郎にしては珍しく鋭いな…。そんな事を考えながらも、ここはそのまま頼むことにしようと口を開く。 「ああ。実はアカヤを学校のある時間だけ、部室に置いてもらえないだろうか…」 「何?」 「先程も言った通り、俺は猫を拾ったのだ。家に留守をさせておいて家の者にこんな姿のアカヤを見られたりしたら困る」 「だからと言ってそれは…」 「弦一郎」 「…今日は一先ず様子見だぞ」 「恩に着る」 弦一郎の足が余程抱き付き易かったのか、未だにぎゅっとしがみ付いているアカヤにほだされたのだろう。 弦一郎からは隠し切れていない、あからさまに喜びのオーラが滲み出ていた。 とにもかくにも、これでアカヤを部屋に閉じ込めるだなんて事をせずにすみそうだ。 「それより蓮二。そろそろあ奴らも来るだろう。この猫の事は説明するのか?」 「ああ。レギュラーには説明しようと思っている」 「そうか」 「おれ、ここにいていいんすか?」 俺達のやり取りを聞いて、ふと俺を振り返ったアカヤと目が合う。 「そうだな。弦一郎に感謝だ。しかし、暴れては駄目だぞ?」 「わかってるっす!」 俺の言葉を聞いてアカヤの目がきらきらと輝いた。 そんな様子に此方も頬を緩ませながら、朝練の為に着替えに掛かる。 やがて、朝練の時間が近づくに連れて部室の扉が開き始めた。 prev / next [ back to top ] |