一度電源ボタンを押して再度電話帳を確認する。 しかし、電話帳の一番上の欄に「赤也」の文字はなかった。 「……どうして、」 まさか間違えて削除してしまったのだろうか?それならなんて俺は間抜けなんだ。呆れてものも言えない。 自分の中にそんな一つの推測を立てて、今度は受信ボックスを開いた。 電話帳に残っていなくても、此方になら赤也のアドレスが残っているだろうと踏んだからだ。 毎日のようにメールが来ていたのでメールを探すの等雑作も無いことだろう。 そう思っていたのに、受信ボックスから赤也のメールが見つかることはなかった。 あるはずの所にメールは存在していなくて、変わりにそこを埋めているのは精市や柳生の名前だったのだ。 内容と言えば何時もと変わらない他愛ないもの。 「……?」 再度首を傾げる。意味がわからない。 いくら探しても赤也の名前が無いのだ。 「にゃあ」 「アカヤ…」 戸惑いから止まってしまっていた俺の服を、アカヤがくいくいと引っ張る。 そちらへと目をやれば置き時計を手に持つアカヤの姿があった。時計の針は普段俺が起きている時間を大幅に過ぎている。 気付けばアカヤやもう着替え終わっていた。 学校へ行きたいと言うアカヤだが、まさか共に授業を受けるわけにもいかない。なので部室で待っていてもらうしかあるまい。それには早目に学校に行くことが不可欠だ。 「少し待っていろ」 「にゃあ」 喋れるのに「にゃあ」としか答えないのは、やはり元がねこだからそれが一番楽だからだろうか。 そんな事を考えながらも、色々な疑問を消し去るために俺は用意をさっさと済ませてアカヤの手を引き学校へと向かった。 学校へは問題無く何時も通りの時間に付くことが出来た。 よかった、この時間であれば部室にいるのは恐らく弦一郎だけだろう。 赤也の一件の為に弦一郎へと連絡する事が出来なかった。この子を部室に置くにせよ弦一郎の許可を貰えなくては話にならない。 外を歩くのに慣れないのか、家を出てからそわそわと辺りを見て回っていたアカヤの手を引いて部室へ向かう。 開いていたドアを開けば予想通り弦一郎の姿がそこにあった。 「おはよう、弦一郎」 「ああ、蓮二か。おはよう」 扉をくぐり自分のロッカーへと足を進める。アカヤはそんな俺の足にぴったりとくっついてきた。 「……蓮二。何だソレは」 流石の弦一郎もアカヤに気付いたらしい。 眉間にわかりやすい程の皺を寄せた弦一郎がアカヤを睨む。可哀想に。アカヤが怯えているじゃないか。 「…昨日拾ったんだ。可愛い黒猫だろう?」 「猫、だと?」 弦一郎はまじまじと俺の顔を見てきた。その顔は不審そうだ。 …それもそうだろう。俺は今、傍から見れば小学生くらいの外見をした少年を「黒猫」と称したのだから。 「俺には少年にしか見えんのだが」 「…もっともだな」 さて、何処から説明していこうか。 俺も弦一郎に訊ねたい事がいくつかある。 一つ一つを説明するのは骨が折れるなと、わからない程にため息を吐いて俺は昨日の出来事を弦一郎に語ったのだった。 prev / next [ back to top ] |