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「どうした赤也。俺がいない間に鈍っちゃったのかい?」

「冗談!」


文句を言って来た赤也を挑発するように言えば、案の定乗ってきた彼の声がコートに響く。

ネット越しでも分かる。
赤也は挑戦的な眼で此方を睨んでいる。

流石、生意気で可愛いエースだ。
成長が楽しみで仕方ない。

「じゃあ、いくよ」


軽いラリーのつもりだったのに、高く投げられたボールはそのまま風を切ったラケットによって赤也のコートに突き刺さる。

赤也もその気になっていたようで驚きもせずに鋭いところにボールを打ち返してきた。面白い。

去年の冬よりも、確実にパワーアップしている。

暫く続いたラリーは、俺がドロップショットを打った事により赤也が上げたロブをスマッシュで打ち込んで終わった。


「あー!やられたっ」

「詰めが甘いよ、赤也」

「部長ー。つい最近まで入院してた人とは思えないんスけど…」

「まあ俺だからね」

「何スかそれ!」


はははと笑いが洩れる。
悔しそうに頬を膨らませている赤也の髪をぐりぐりと撫でまわせば「ちょっ、何すんスか!」と抗議の声が上がった。
それを受け流しながらも時計にへと目を向ければそろそろ朝練を終える時間を指している。


「ほら、そろそろ片付けないといけないから真田達呼んで来といてくれないか?」

「えー…副部長を?」

「何だ、嫌なの?」

「だってミスったなんてばれたら鉄拳モンっスよ?!」

「ほーミスをしたのか」

「げっ副部長?!」

「あ、真田」


駄々を捏ねていた赤也の肩にいつの間にか来ていた真田の手が乗る。真っ青になった赤也がしまった、とでも言いたそうな顔をしているが時既に遅し。


「お前は放課後ランニング10週追加だ!」

「うええ?!」


案の定真田からペナルティを与えられていた。
「副部長の鬼ー!」と声を上げながら駆けて行った赤也は、大方柳のところにでも行ったのだろう。
入院中、柳がよく「赤也は弦一郎に怒られると決まって俺のところに来るんだ」と洩らしていた事を思い出す。


「全く…赤也たるんどる」

「ふふ、取り敢えずは部活を終わろうか。そろそろ上がらないと揃って遅刻ついちゃうよ」

「む、それはいかんな」


俺の言葉に時計を確認した真田は、そのまま「集合!!」と声を荒げた。

集まった部員に連絡を告げ、柳が部室から持ってきてくれたプリントを回す。
頃合いを見て「解散」の号令をかけると各々が自分の使っていたコートの片付けや部室にへと向かって行った。

まだやりたい事があるからとコートに残っていた真田と柳に一言告げ、部室に戻る。
部室の扉を開いたところで、背中に衝撃を受けた。


「ゆっき村くーん!」

「おっと、何だ丸井か」


衝撃の正体は丸井だったらしい。満面の笑みで俺に飛び付いてきた丸井はその手にお菓子の袋を持っていた。


「何だは酷くね?」

「いきなり飛び付かれたら普通驚くよ。で?それは何だい?」

「よくぞ聞いてくれました!これ新作のお菓子でー…」

「おい、ブン太今はまずいって…!」

「何だよジャッカルー…ってあ、柳!」

「没収」


後ろから伸びてきた手が丸井の持っていた袋を攫っていく。


「何で取るんだよぃ!」


丸井がお菓子を追い掛けた事により俺の身体は解放された。後ろを向けば高くお菓子を持ち上げた柳と、そのお菓子を取り戻そうと飛び跳ねる丸井。そしてその様子を困ったように見守るジャッカルの姿があった。

そりゃ20cm近くも差があったら厳しいよね。


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