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頭を下げ続けていれば上からくつくつと堪えるような笑い声が聞こえて来る。

何なのだと顔を上げれば必死に笑いを堪えている銀髪さんの姿があった。


「えっと、あの…?」


「ああ、悪い悪い。気にしなさんな…っふ」


そう言いつつもまだ肩を震わせている彼。

ちょっと、いくらなんでも失礼では無いだろうか。
何処に笑う要素があったんですか何処に。私謝っていたのに。

少しむっとして銀髪さんを見れば再び「すまんのう…」と謝られた。

気が済むまで笑ったのかもうすっかり話し掛けてきた時に戻っている。
何て切り替えの早いことだろう。


「言い遅れたがお前さんならここにいても大丈夫じゃ。ここは俺の休憩スポットなり」


何が楽しいのかにこにこと笑いながらそう告げる銀髪さん。
…つまりはサボり組ってことですか?


「あ、へーそうなんですか。ばれないように気をつけて下さいね銀髪さん」


関わらない方がよさそうだと背を向ければ慌てて止めに入られる。


「ちょっ、待つなり!」


「え、何ですか」


あ、しまった。
私今うっかり嫌そうな顔しちゃったよ。華宮咲希一生の不覚…!

案の定と言うか何というか、銀髪さんが「うわー」っていう顔してきた。
うん、私が言うのも何だがそこまであからさまに出さなくてもいいじゃないか。

悪いとは思ったけど、まあこれはお互い様ということでいいだろう。


「あー…、今日は何か整備があるとかで部活が早よ終わるんじゃ」


「え!マジですか!」


「おーマジマジ。お前さん誰か待っとるんか?」


銀髪さんの問いかけに一瞬頭を悩ませる。
待っていると言えば待っているのだろうか。いや、私はただ見学しに来た身何だけど…。柳先輩と帰れるなら願ってもない話だ。


「…微妙?」


「何じゃそれ」


散々蓄めて答えた言葉は結局それだけだった。
銀髪さんに苦笑いされる。


「それより銀髪さんそろそろ部活に戻らなくていいんですか?」


「おお、そうじゃったな。その前にお前さんその呼び方どうにかならんか」


「はい?」


呼び方?呼び方っていうと銀髪さんのことだろうか?
いや、でも私銀髪さんの名前知らないし。ねえ?


「名前知りませんし」


正直にそう答えれば驚いたように目を見開かれた。


「そうか…確かに挨拶がまだじゃったな。3年仁王雅治じゃ」


銀髪さん先輩だった。仁王…と頭の中で繰り返す。
よかった、一応初めての人には丁寧語で喋るようにしてて。危うく先輩にタメ口きくところだよ、危ない危ない。


「私は2年華宮咲希です」


向こうにだけ名乗らせるというのは失礼なので此方も一応自己紹介しておいた。

途端にほぉ…と目を細める仁王先輩。え、私何か可笑しいことしました?


「まあええ。じゃあ俺は戻るきに。またな咲希」


は?いきなり名前呼びですか?
柳先輩だって私のことまだ苗字呼びなのに…!
いや、ちゃんと話してまだそんなに経ってないけども!それでも何だかね!


言いたい事は沢山あったが、それをまとめる頃には仁王先輩は既にコートに入っていた。

…なんて速いんだあの人。


もういない人に向けて文句を言っても仕方ないと、仁王先輩が来た事により中断されていた見学を再開する事にした。






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