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どうやら私は柳先輩の、いや、テニス部の人気を甘く見ていたようだ。


私の目の前にあるのはテニスコート…の、筈なのだがぶっちゃけた話人の頭しか見えません、はい。

放課後の自由な時間にみんな暇なのかテニスコートをぐるっと囲むようにしてあちこちで黄色い悲鳴を上げている。
もうテニス部が可哀想な位煩い。応援してる側も咽喉は大丈夫なのかと心配になってしまう程だ。

「…ここテニス部…?だよね…?」

まるでアイドルグループがそこにいるのかと問いたくなるような惨状。
確かにテニス部は顔がいいという噂を聞いたことがあるがこれはある意味異常ではないだろうか。今まで知らなかった自分が凄い。麻衣が驚いていた理由も理解する事が出来た。

しかし、あまり話した事もないような先輩に告白した私もこの人達と何ら変わり無いのかもしれない。
そう考えると改めて自分は何て大それた事をしたんだと反省した。
だが反省したからといって時間が戻るはずもない。

「…まあ、私は私なりに頑張ろう」

無茶を言ったのは確かに私の方だが、それを承知で最終的に受け入れてくれたのは柳先輩なのだ。
ぱちんと頬を叩いて沈んでいた気持ちを浮上させた。

去った事を考えるのはもうよそう。
取り敢えずはここに来た目的を達成するべきだ。

そう考えた私は一先ず応援団的な女子の近くを離れて、ゆっくりテニスを見れる場所を探した。

暫く辺りを捜索したところで人気の少ない木陰を見つける事に成功する。

「よーし、ここなら大丈夫だ」

少し離れてしまうため1人1人の顔は見えないが、全体的な動きを見るにはもってこいの場所だった。

そこに腰を下ろしてテニスコートを走り回っている人の姿を追い掛ける。

「(あ、あれ柳先ぱ…)」

「こんなとこで何しとんじゃ?」

「ふべああああ?!」

乙女あるまじき声が出た。何これ凄く恥ずかしい。
私に声をかけたその人も目を丸くして固まってしまっているじゃないか。

「え、あ、すまん…な?」

「い、いえお気になさらず…!」

ぶっちゃけ心臓が口から出そうな位驚いたがこの人に罪は無いだろう。寧ろこっちが勝手に驚いたのに謝ってくれるなんていい人だ、うん。見た目は白…銀髪だけどきっといい人なんだ。

…そう言えばこの人の来てる服テニス部のユニフォームじゃ…?この人の方こそこんな所で何しているんだ。

「あー。でさっきの続きなんじゃがこんなとこで何やっとるんじゃ?」

「えっと、見学を」

ぽりぽりと頭を掻きながら問い掛けられた質問に簡潔に答える。
私の方も聞きたい事はあったが、生憎私は初対面の人にそんなずかずかと訊ねる事が出来る神経を持ち合わせていない。

「ここで?」

事実を述べた私に銀髪の彼は不思議そうに首を傾げた。それに私の方が何でそんなに聞くのかと疑問を持ってしまう。

「そうですけど、何か不都合がありますか…?」

もしかしたらここはテニス部がトレーニングに使う場所なのかもしれない。木陰だけど。テニスコートから離れてるけど。
そんな普通に考えたら違うと一瞬で分かるような考えは、知らない人に話し掛けられて気が動転している私の頭では普通に受け入れられていた。

「いや…まああるっちゃああるきに」

「え?!」

先程までとは雰囲気の変わった彼がそう告げた事により、私の心は申し訳なさで一杯になる。

「えと、あのすみません…」

どうしたらいいか分からなかったので、取り敢えずは頭を下げて謝ることにした。




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