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ちょっとした会話からそれは決まった。

学校帰りの帰り道。その日は学校側の都合で生徒は例外無しに一斉に下校させられた。つまり、普段は時間の合わない柳先輩と共に帰れるという事でもある。
終礼が終わってすぐに私は3ーFに向かった。途中出会った切原くんにミーティングが無いことを聞いていたので、後は先輩の気分次第と言ったところだった。
そして柳先輩の返答は変わらず「構わない」だったわけで。そういった経緯で私は今電車に揺られていた。

時はもう5月に入るといったころで、明日から世間一般にゴールデンウィークと呼ばれる大型連休に入る。
柳先輩は部活はあるのだろうか、もし空いているなら出掛けてはくれないかと話し掛けた時にそれを知った。

「すまないな、ゴールデンウィークはテニス部でちょっとした合宿に行く」

「ゴールデンウィークに?!」

「3日間程の小さな物だ」

「テニス部凄いですね…」

合宿だなんて帰宅部である私とは縁の無いものだ。そりゃ運動部は休みの日でも部活をする事があるとは知っていたが、まさかゴールデンウィークも潰れるとは。その部活が好きじゃないと出来ないよね。

「あー…じゃあ確かに厳しいですね…頑張って下さい」

期待していた分、駄目となると落胆は大きい。

「ああ。……華宮は帰宅部だったか?」

肩を落としていた私に、柳先輩は何故かそんな事を聞いてきた。
疑問を覚えながらも「はい」と頷く。

「そうか。確か家事は得意だと言っていたな」

「まあ人並みには出来ると思いますけど…炊事洗濯くらいならある程度…」

「…ああ、もう駅だな」

「へ?あ、本当だ」

気付けば電車は見覚えのあるホームに滑り込んでいた。

「じゃあ、またな。華宮」

「あ、はい…さようなら先輩」

開いた扉から柳先輩が出ていく。ホームから立ち去る先輩の姿を見送る。
扉が閉まり、再び電車が走りだす。車内の中にいる人がわいわいと話している中に1人、扉にもたれかかって外を見つめた。

* * *


家に帰ってからの私は酷く無気力な感じだった。
飼っているわんこ、名前をティファニーという、が心配して私の頬を舐めてくるくらいに。感情による一時的なものだ、だから大丈夫だよと頭を撫でてやればティファニーは嬉しそうに頭を擦り付けてきた。
その姿に癒されながらソファーに身体を沈めていると、机に置いていた携帯が震えた。立ち上がって確認すると、それは知らない番号からのもので一瞬出ようかどうか迷う。
しかし、結構な間鳴り響くそれに根負けして出た。

「…はい」

『漸く出たか…』

「え?!柳先輩?!!」

『そうだが…登録していなかったか?』

「メアドしか知りませんでした!」

あの質疑応答の際、私は柳先輩のメールアドレスを柳先輩は私の携帯番号を知った。何で私は先輩の番号聞かなかったのかなあ…。あ、話す自信無かったからだ。

『そうか』

「それで、どうしたんです?」

『ああそうだ。今日の電車での話なんだが』

「電車?」

『ああ。合宿の件なんだが、マネージャーをしてくれないだろうか』

「え!まね…?!」

突然の申し出に声が裏返る。
この時ばかりは幼い頃から"自分のことは自分で出来るように"をもっとうに育ててくれた両親に心底感謝した。

願ってもいない申し出だった。
どうせ家にいてもやる事なんて無いのだ。それなら柳先輩やテニス部のお手伝いをしていたい。私なんかで役にたつか分からないけれど。

「私やりたいです!」

『ふ、お前ならそう言うだろうと思っていたよ。明日からだが、大丈夫か?』

「はい!」

用意は今日中に済むだろう。

『なら、明日。6時に立海前に』

「わかりました」

会話が終わり、ピッと携帯の電源ボタンを押す。

さて、準備をしなくては。
高ぶる気持ちを感じながら、私は立ち上がった。




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