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「華宮」


ぼーっと空を眺めていた私に落ち着いた低い声が投げ掛けられる。


「あ、柳先輩。あの、私一緒に」


「一緒に帰りたいと、お前は言う」


「…はいその通りです」


早速一緒に帰って下さいと頼もうとしたのに、それは柳先輩によって阻まれた。
どうして私より先に言っちゃうんですか先輩。データ半端ないです先輩。


「そうだな…今日は特に予定も無いし構わない。帰ろうか」


噂通りの言葉封じ(誰だ名付けたの)に呆気にとられていた私に、柳先輩はそう続けた。

言いたいことを先に言われてしまった為に落ち込んでいた私のモチベーションが大幅に上がる。ダメ元だったのだから嬉しくて仕方ない。


「え!いいんですか!!」


「いいも何も、その為に待っていたのだろう?」


「まあそうなんですけどね、ほら!やっぱり嬉しいと言いますか」


身体全体を使ってせかせかと説明する私を見て柳先輩がくすっと笑った。


「お前は本当に元気だな。さあ、帰ろうか」


言いつつスッと横を通り過ぎて校門の方へと向かう柳先輩を慌てて追い掛ける。

ちょこちょこと柳先輩の横に並んで歩けば、考慮してくれているのか歩く速度はぴったりだった。


「あの、柳先輩」


「華宮」


「はい?」


校門をくぐって家路を辿る。確か先輩は私の降りる駅の2つ手前で降りていた気がするので電車までは一緒に帰れたはずだ。いや、偶々見ただけなんでストーカーじゃないですよ、本当に。

そんな駅までの道。
折角の機会だからと柳先輩に色々と訊ねてみようと口を開いた私の言葉を、またしても柳先輩が遮った。
どうやら柳先輩は人の言葉に被せるのが好きらしい。


「お前に聞きたいことがあるんだが、構わないか?」


「それって選択肢無いですよね?」


「勿論」


…即答されたんですが。ここでの即答はどうかと思ったが、押されてばかりではいけないと反撃に出る。


「別に構いませんけど、変わりに私も柳先輩に質問していいですか?」


柳先輩の顔が少し驚いたものに変わった。しかし、それも一瞬のことで直ぐにいつもの涼しい顔つきに戻ってしまう。


「ああ、構わない。なら順番で質問し合うか」


何か企むような笑みを浮かべて、柳先輩はそう返して来た。
私もその提案には賛成だったので同じように笑みを浮かべて頷く。


「では俺からさせてもらおう―」


そうやって始まった私と柳先輩の質問大会は、電車に乗って先輩の降りる駅に着くまで続けられた。

質問内容は大半が簡単なもので誕生日や血液型、家族構成等の基本的なものだったのだが、柳先輩の質問攻めがそんな甘い筈がなかった。それ何に使うデータ何ですかと聞きたくなるような質問も紛れ込んでいたのだ。答えてしまった私も私だけれど。

しかし私も負けてはいない。誕生日や血液型をはじめ、どさくさに紛れて色々な情報を手に入れる事が出来た。メールアドレスとかね!

その喜びは帰宅してからも収まることは無く、気付けば親に怒られる羽目になっていたり。
でもそんな事は今の私には何の苦でもない。


「(……明日も一瞬に帰れるかなあ)」


まだ来ぬ夜明けを望みながら、私はそのまま携帯へと手を伸ばした。





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