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見てしまったもの



その日の部活は泣きすぎて腫れた目が目立ってしまったので早退させてもらう事にした。同じマネージャーをしている友人には申し訳なく思ったが、彼女らは名前の心情を察してか快く早退することを了承してくれたのでいくらか心が軽くなる。
きっと明日からはまたいつも通りの日々が待っているのだろう。
…それでいい。
いつの間にか自宅についていた名前はそのまま一日を終えたのだった。




「…名前、集中できていないようだが大丈夫か?」

翌日、名前が朝目覚めると目の腫れは大分落ち着いていたので朝練には無事参加することが出来たが腫れがひいていたと言っても心の整理はついていないのに変わりない。ぼーっとしながら仕事をしていたため柳に心配をかけてしまう結果になってしまった。

「あー柳ごめん…ちょっと昨日テレビに熱中しちゃってさ」

その原因が何なのかなど素直に言える訳もなく、名前は当たり障りの無い言い訳でその場を凌ぐ。それを聞いた柳は「そうか」と言って練習に戻って行ったが、恐らく嘘だとばれているだろう。鋭いやつはこういう時に本当厄介だとつくづく実感する。

「…はあ」

こんなことではいけない。そう思えば思うほど落ち込んでしまう心、とんだ悪循環だ。自分自身のことであるというのに思い通りにいかない心に名前は溜息を零すしかなかった。
きっとこれは時間が解決してくれるのを待つしかないのだろう。
部活後、授業が始まる前に佳奈美から「顔色が優れないけどどうしたの?」と訊ねられた名前は笑って誤魔化すしかなかった。
大丈夫、私はまだ笑えている。
でもその数日後だった、私が信じられない光景を目撃することになったのは。

いつも通りの学校帰り、親からお遣いを頼まれ街に出ていた。
駅前のスーパーで目当てのものを買い帰路に着く。その帰り道だった。
見てしまったのだ。

「幸村くん、この先にお勧めのカフェがあるから」

「うん、じゃあそこ行こうか」

それは自分のよく知った親友と、先程別れた幸村の姿。
その姿は傍から見ても幸せそうなものだった。

「佳奈美…、幸村…?」

そこにあったものは絶望だ。
大好きな親友と、大好きな彼。どちらを選ぶかなんて出来なくて。
その結果が、これだ。

「あはは…おかしいな…」

すごく、胸が痛い。
彼女の幸せを願って断ったのだ、だから後悔などない。そのはずなのに、胸が痛い。

こんな馬鹿なことあっていいはずが無い。自分で選んだのだから。
だから…

「…帰ろう」

2人が消えた方向とは逆へ歩き出す。
それは家とは反対に当たってしまうのだけれど、今はそれでもよかった。
頭を冷やさなければならない。

重たい買い物袋を提げながら、名前は夕闇を進んでいったのだった。





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