[1/2 ] ノート端の文字 大好きな彼に告白をした。 もうかれこれ1週間も前の話だ。 返事は無かった。同じように思いを告げたと言っていた友達からの情報ではすぐ返事を返されるという話だったのに今でもまだその返事は貰えていなかった。嫌ならそうはっきり言ってもらいたい。 名前はもともと断られることを覚悟していたのだ。 今まで胸に秘めていた思いだったのだが、いつまでもそれをただ大切にするというのは名前にとって辛いものだった。 だからこそできるだけ早く返事を貰いたかったのだ。答えは恐らく否定のものであろうに、ずるずると先延ばしにされても辛いだけである。 「…はあ」 今週に入って何度目になろうかという溜息を吐いた。 溜息をすると幸せが逃げるというが、今の名前に逃げるような幸せはないだろう。今が一番辛い時期であろうと思われるのだから。 重ねて溜息を吐こうとしたその時だ。教室の入り口から自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。 「苗字!」 声の主など見なくても分かる、彼だ。 案の定そこへ目を向ければいつも通りの丸井の姿が目に入った。 「どうしたのさ、丸井」 近頃ずっと顔を合わせていなかった彼。 恐らく名前の事を避けていただろうに、今日に限ってどうしたのだろうか。もしかすると返事をもらえるのかもしれない。いや、こんな大勢の人がいる中でされても困るのだけれども。 そんな名前の期待半分、不安半分の気持ちをよそに丸井は全くもって見当違いな事を口にした。 「悪いんだけどノートかしてくんね?」 「は?」 思わず口に出してしまった。 それも仕方ないだろう、今まで名前と丸井はノートの貸し借りをするような仲ではなかったのだから。 それなのに当の丸井はと言えばさも当然とでも言うかのように教室の中に入ってきて名前がノートを出すのを待っている。 そろそろクラスの女子の視線が痛くなってきたので名前は仕方なく自分のノートを手渡した。 それを受け取って「サンキュ!」と言い残して出て行った彼は何がしたかったのだろうか。全くもって理解 できないまま始業のチャイムが鳴ってしまっていた。 次の業間、うきうきとした丸井が先程貸したノートを返しに来た。 「助かったぜぃ!」という言葉とともにそれをただ見つめる。 そのまま慌しく去っていった丸井は名前がはっとした時には消えていた。 「(え、あいつ本当に何なの…?)」 もう理解するのも諦めて名前は気持ちを切り替えようと次の授業の準備をしていく。すぐに終わってしまったそれ。その後ただ暇をつぶす為にさっき丸井が返しに来たノートを何気なく捲っていった。 やがて以前の授業で最後に書いたページになる。そこに書いた覚えの無い文字を見つけた。 ぱっと見た感じ自分の文字ではない。1文字1文字追っていくとそこにはこう書かれていた。 『俺も好きだぜぃ』 名前は書かれていなかったが、このノートを名前以外に触った人物は1人しかいない。 それを書いた犯人が誰か気付いた名前は教室を飛び出したのだった。 (何で直接答えてくれないのさ…!) (あの時は仁王たちが見てたんだよぃ!) top |