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やってみる


数日後、名前はやっとのことで幸村に接触することに成功した。
ここに来るまでが長かった、幸村のファンに認められている佳奈美たちと違って名前は一般生徒。ファンの風当たりは強かったのだ。それはもう図書室で会った柳に心配されてしまった程に。

「大丈夫かい…?」

あちこちに擦り傷を作っている名前が真剣な面持ちで近寄って来たのに驚いた幸村は若干引き気味であった。
しかしそんな事を気にしている暇は無い。

「幸村くん、話があるの」

はっきりとそう告げる。
その言葉を予測していたのか、ふうと息をついた。

「ごめんね、今は聞けない」

確実に「話」の内容を誤解している幸村に「告白じゃないよ」と続ける。
意外そうな顔をした彼は、じゃあ何という顔を此方に向けた。

「佳奈美の事で話があるの。ここじゃ何だから放課後時間取れる?」

少し迷った後、幸村は頷いてくれた。
佳奈美の名前を聞いて顔色を変えるあたり、やはりまだ佳奈美の事を諦め切れていないのだろう。

本当に大変なのはこれからだ。
名前は気を引き締めながら放課後を待ったのだった。



* * *


放課後。部活後に約束どおり来てくれた幸村を名前は町へと連れ出した。
学校だと誰が聞いているかわからないからだ。

「この先におすすめのお店があるから」

そこは知る人ぞ知る隠れた喫茶店で、店長も気前がよくいつも名前が佳奈美と共に利用している店だ。そこなら恐らく話が他に流れてしまうこともないだろう。
名前の言葉を聞いた幸村は興味なさげに「じゃあそこへ行こうか」と頷いてくれた。

思った通り喫茶店の中には人の姿はあまり無く、一番奥の席を陣取る事に成功する。
名前は腰を下ろしたと同時に口を開いた。

「単刀直入に聞くよ。幸村くんは佳奈美の事が好きなんだよね?」

これは相手の返事が分かり切っている質問だ。なんたって目撃しているのだから、告白の瞬間を。
幸村は一瞬驚いた表情を浮かべたがすぐにいつもの顔に戻った。

「それを君に答える義理はないだろう?」

「あるよ」

「…何?」

幸村の眉間に皺が寄る。この人にこんな顔させれる人なんて滅多にいないだろう。ぶっちゃけた話凄く怖いです。でもこれ位で諦めてたらだめだと自分に渇を入れた。

「私、その事でお願いがあって来たんだもん」

お節介だと自分でもよくわかっている。
でも、自分の軽率な発言のせいで大好きな親友が辛い思いをしているだなんて何かせずにはいられなかったのだ。

「随分とプライベートな事につっこんで来るんだね」

幸村から伺えるのは嫌悪。
当たり前だ、数日前に振られたばかりの相手にその話を無理に振っているのだから。

「失礼な事してるってわかってる…。でも、もう一回。もう一回だけでいいから、佳奈美に気持ちを伝えてあげてほしいの」

「…君は何を言ってるんだい?」

もう一回。その言葉に幸村は気がついたらしい。
やはり勘が鋭いなと名前は変なところで感心する。

「幸村くんが一回告白したの知ってる。その答えも。でも私は幸村くんが知らない事実も知ってる」

今にも席を立ってしまいそうな幸村に名前は続けた。
その言葉に幸村も「知らない事…?」と留まってくれたので名前はホッとする。

「そう、佳奈美は幸村くんがいなくなった後に泣き崩れたんだよ」

驚いたように目を見開く幸村。

「それは、」

「うん」

これで佳奈美の気持ちは伝わっただろう、しかし彼一人にもう一度告白お願いと丸投げするつもりはない。

「ねえ、私は佳奈美に笑っていてほしいの。だから、だから幸村くんの力を借りたい。…だめかな?」

彼にとって悪い話ではないはずだ。じっと幸村の返事を待つ。

「…いいよ、俺にとったら願ってもない話だ。けど君はいいのかい?」

OKをもらえた事に喜ぼうとしたが、それを幸村の言葉が妨げた。
いいも何も、こうなる事を望んだのだからいいに決まっているではないか。

「良いに決まってるよ」

「…そう、佳奈美はいい友達を持ってるんだね」

綺麗に幸村に微笑まれ、顔が赤くなったが、「へへ、そう言ってもらえると嬉しいや」という事でごまかした。自分の気持ちを悟られるわけにはいかない。

「じゃあ、私の提案なんだけど…」

この後、喫茶店で明日の計画を2人で立てた名前と幸村は日が落ちきる前にその場を後にしたのだった。





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