ふわふわと風船が飛ぶ。広場の空に浮かんでいく。俺はそれをじっと見ている。






「ああ、そう、そうね…言ってなかったかもね」


 モコは気まずそうに目線をそらした。


「恥ずかしかったのよ、なんだか…いい年して、強くもないくせに、見た目だけやんちゃで、獣なんて、ああ…こう言うとこの子ちょっと怒る…、…、ようなきがするんだけど」


 くるりと丸い目がこちらを向いた。モコの後ろでらんらんと牙と目と爪を輝かせながら狼は寄り添っている。彼女のいつもの能力の、風船も飛んで、なんだか遊園地にいるみたいだ。


「まあ、確かに、意外ではあるな」
「人型なの羨ましいなあって思うの。二人ともスタンド可愛いし…アバッキオ、交換してくれない?」
「無理に決まってんだろ」


 モコが愚痴をこぼすと文句をいわれた狼が彼女をつっついた。頭に目玉焼きを載せて、首に赤いリボンをつけて、もしかして雌なのだろうか。「いたい、いたいわ」冬の枯草のような獣の体毛が揺れた。


 モコは覚えているだろうか。君が風船を飛ばすとき、君はいつも遠くをみつめていること。本当にその場所があるのかもどうかわからない、空っぽの場所をみつめていること。君を大事にするべき俺たちは、どうしようもないから、ただずっと君をみていること。近づくことさえできなかったこと。




「内緒にしていてね。他の人にはあまり言ってないのよ」


 車を運転しながらモコは念を押した。暗闇の街が蛇みたいに過ぎていく。


「ブチャラティ、あなたが入る前ね、周りの大人にあの狼を見せたら、笑われてしまったの。おまえ、弱いくせに、そんなのがついたのかって。実際あの子は弱いし、私は使いこなせないし、しょうがないから、風船だけってふりをしているの」