乾いた足元の草が音を立てる気候だった。外で薄着なんてしてられない頃俺はモコが走り去る後ろ姿ばかり思い浮かぶようになった。
 いつかジョルノに釘を刺される日がくるだろうとは思っていたけれど、それは予想より遅かった。

「言うかどうかは迷っていたんですよ」

 ボスのきれーな部屋をこんなことを話すために使っていいのかとは思った。

「君たち二人だって、当然子供じゃないですし、ただあんまり節操がないみたいな、そういう話になってしまっては、僕らは、厄介ですから、ぼくだって、そんなに、きみたちを知っているわけでは、ないですから、…心配だって、そんなにしてなかった」

 花びらがひとつ落ちるような気配がした。それはジョルノが視線を落とした音だった。室内は暖かいのだから、水滴だってつく。

「一緒にいた期間でいえばフーゴが一番長いでしょうが、彼はあまりモコに会いたくないでしょう。僕は論外ですし。君に任せたいんですよ」

 悪ぃなあジョルノ、頭痛ませて。ええほんとに、って返ってきた。

 ジョルノの声が耳の奥で繰り返される。君に任せたいんですよ。考えると、どうしてもまた、考えてはいけないとわかっているのに、疑問がひとつ浮かぶのだ。なんだってモコは、俺なんか選んだんだ?


 他の女と遊んだはなしを聞いてもモコはあまり反応を示さなかった。ソファに深く座り込んでこちらを見もせずぼうっとしていた。俺はなげだされた足を見ていた。今おもえば、俺はすこしそれが気に入らなかったのだろう。そしてモコはそういうことに向いていなかったのだろう。

 俺が知らない女と寝たと聞いて(それがどういう風に伝わったのかは俺はわからないが)モコは仕方なくしかりつけたという感じだった。いつもの格好で俺の目の前まであるき、俺が前を向くまで手を揃えて待っていた。俺は前のモコと同じように、モコの言っていることが耳から耳に抜けていくようだった。



「ミスタ、もうわかってるかもしれないけど、私きっとこういうこと苦手なのよ。だからあなたが望む通りにできないかもしれないし、あなたにいやな思いさせてるかもしれない。嫉妬してもうまくいえなくて、あなたに聞きたいことだってきけない。でもあなただって、自分が悪いことって、あるわよね?なんでこんなこと言わなくちゃいけないかわかる?」


 目の前のモコは後味悪そうに、ひねくれたように下を向いて、

「あんたが好きだからいってるのよ」

 モコが抱きついた。俺は知っていたのだ。モコの泣いたところを一度もみたことなくって、モコが一人で泣いているのか、ジョルノの前では泣いているのか、それともまったく泣いていないのか、わからない。ただ、あのとき、ブチャラティの死体の前でうなだれるモコだけを、知っているのだ。俺に会う前モコが何をしていたのか知らない。俺がなにをしていたかだってモコは知らなくていい。だとしても、それも全部、なにもかもひっくるめて、やっと、愛してやることができるのだ。