ねえ、それはなに?
 手紙よ、手紙 とどけたいの
























 慣れない私にビーンズさんはドレスをすすめてくれた。淡い水色のワンピースだ。きらきらひかって私には到底似合わないくらいきれいだった。少し寒くなってきた秋の気候に両肩を出すのはためらわれたが会場の熱気をふまえたら多くの人は平気なのだろうと思った。渡されたワンピースを手にして協会のひとつの部屋でうつむいた。




 夕方の青と橙のグラデーションを名残惜しくながめ一人そっと廊下をすすんだ。パーティが始まるにはすこし早い。でもみんなもうたくさんいた。背の高い男性も着飾った女性も林のように並んでいてこれなら私が扉を開けて入ってきても気付かなそうだった。一緒に行こうと言ったビーンズさんに、ビーンズさんには役目があるから、私といっしょにいられる立場の人じゃないからと断った。ホールの奥でまだ年配の男性と喋っているビーンズさんの反対側で背中合わせにするように副会長さんが立っていた。このパーティの主役の彼はかわるがわる話しかけてくる人々に笑顔を捧げ続けていた。忙しいはずなのにはたからみれば全くまいった様子はなかった。私はそれをすみっこで壁にもたれてずっと見ていた。もちろんビーンズさんをです。
 たまに一瞬目が合うような気がするのは気のせいだろう。あえて表情変えるでもなく、しゃべりつづける笑顔の延長で口元はきれいな弧を描いていた。みじめな私は輝く人々の中でどんどん埋もれていった。ほんの数センチのヒールが不安定だった。




「ガゼルさん」


 やわらかい、甘い、桃の匂いみたいな声がすぐ横で聞こえた。小声だと認識した時にはにっこり笑ったかおに手を掴まれて扉を開けてするりとホールを抜け出してしまっていた。ぱたんと閉めたとき頭の中の喧騒が途絶えた。






「いいんですか?会長様が抜け出して」
「ちょっと奔放なくらいがちょうど良いでしょ」





 月明かりに照らされた渡りがひんやりと光っていた。誰もいない廊下にふたりぶんの足あとだけが影になった。走るのが苦手な私を引っ張って駆け出した。





 長く続く窓のむこうで中庭の暗い芝生が息をひそめて沈んでいた。見上げると切り取ったようにぱちぱちと輝く星空がひろがっていた。私たちはだまって手をつないでそれを眺めていた。大きさの違う手が白くうきあがって、たどるように隣にいる彼の顔に目を向けると、副会長さんはだまったまま彼の目はじっと空をみていた。







「ねえガゼルさん、ボクに何か言うことはない?」
「とくにありません」
「ほんとに?」


 副会長さんは見下ろしながらたずねた。私はすこし考えてじっと相手の目を見て答えた。


「ないです」
「そう」


 そうするとあっけなく彼は空に視線をもどした。ずっとみてるとわたしは目が疲れてまぶたが降りてきた。


「眠っても良いよ」
「そんなんじゃないです」
「やだなァ」










 今度あなたにも手紙を出すわ、わたしの、ひみつの場所をおしえてあげる
 ほんとうに?約束だよ、ボクまってるから