ベッドで目を覚ましたら副会長さんはもういなかった。私はもう一度部屋を見回してシャワーを貸してもらうことにした。鍵は大丈夫かな、と思ってから盗られて困るような物がある部屋ではないのだと気付いた。彼のことだから、たとえば悪いことをしたとしても、証拠もなさそうだ。昨日のままで副会長室を出た。
 
 私が部屋に入ると一拍遅れて気付いた彼は私にわらいかけた。


「おはようガゼルさん」


 何もなかったみたいなふりして挨拶する人。私は無表情のままで「おはようございます」と小さな声で返した。そのまま会議は続く。彼はいつものようにいやな顔で笑っている。「ガゼルになれなれしくするな」「しゃべるなバカ」と罵倒の声が聞こえる。私はまだほんの少し湿った髪をうつむけている。スカートの裾を引っ張られた気がした。


「ガゼルさん」
「なあに?」
「部屋出た方が良いですか?」
「どうして?」
「元気がないみたいだから」
「そんなことないですよ」


 ビーンズさんと小声で話した。私はそんなことないと言う。ふいに副会長の方を見そうになって、我慢する。「昨日は徹夜だったのですか」
「徹夜するほどのことが私にはありません」いつもみたいに笑って言う。「ビーンズさんの方が気苦労が多いでしょう?大丈夫ですか。今はおやすみになってもいいんじゃないですか」「私は大丈夫です」


そうですか、と私は返事をする。これからしばらくこれがつづく。終わりは見えている。長くなるかもしれないけど、結果は変わらない。ただそれを繰り返す。休めるときは休んでいた方がいいけれど、大丈夫だというのなら、じゃあ、私たちは隣に並んで立っていよう。十一人とぬいぐるみ一人。ただその横顔を見つめる。正面になどなるな。私は目を逸らそうとするのだ。ひとつ下げてケーキと紅茶に合わせようとするのだ。
なにもかも手遅れだと、いつになったら気付けるだろう