「いたっ」
戦争でくずれた瓦礫の上にべしっ、って捨てられるみたいにおとされて、足をひねりそうになった。襟元を爪先で引っかけられたから、ただでさえ痛かったのだ。しかもそれで勢い良くとぶものだから。なんどやっても乱暴だ。ラフィットさんは自分の腕のほこりをはたいてから私のそばに来た。私の髪を首のあたりからなでてから、私の目元をさわった。人のいない壁の影でわたしたちはしゃがんでいた。もう戦の音は止んでいたけれど、それよりずっと静かで奥まったところにいるように感じられた。よく見たら彼の肌は血で滲んでいた。私の手は乾いていた。
「なにか言い残すことはありますか?」 「どうしてですか?」 「だってもう赤髪船から離れるのですから。もうあちら側にはもどれないのですから」
ついさっきまでの戦場から砂煙が届く。もうそこは人が死ぬ場所じゃない。赤髪さんが止めたから。少しだけ私の服も汚れていた。私は彼の目を見て言った。
「わたし、待っていませんでした。あなたたちが迎えに来てくれるなんて、これっぽっちも思っていませんでした。もうずっと会えないと思っていました」 「私はあなたを捕まえに来たのです」
ラフィットさんがいつもの声の調子でしゃべる。彼の赤い唇を見ていられない。私はそろそろうつむきたい。「あなたはさっきまでむこうにいたのです。あなたは選べる場所にいたのです」 まばたきをしてしまう。
「でももう選ぶことはできません。あなたがここに来たからです。私たちは野兎ひとつ逃しません。方法はいくらでもあります。船長が引きずり込むこともできた。オーガーがはずそうと思わなければ、あと一歩であなたは彼の銃弾で命を落としていた。まさか四皇の船に乗っているとは思いませんでしたけどね」
「それは、」と私は言った。「それは、私が共犯者だからですか?」「よくわかっているじゃないですか」と彼は言った。私はもう前を向いていることができなかった。うつむいて涙を落としていた。彼は私の頭をなでて楽しそうに笑った。
「私たちから逃げられるとお思いで?」
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