嵐の行方をさいごまで見届けないで
このままじゃあいられない










 目覚めていちばんに膝と手を床につけてしまったのは、日頃うしろめたいことをしているからでしょうか?またあの薄暗い部屋で鎖をつけていたのがもう遠い過去のようです。大勢の男たちの叫び声の中で考えたことはたしか「なんでいきなり土下座なんだよ!顔をあげろ!」新鮮な突っ込みで我に返った。周りには数人の男の人がいた。


「助けて早々に土下座とかなに、お前ワノ国の武士?」
「いえっただの一般うさぎ人間です!」


 けたけた笑っていたのは、威勢のいい突っ込みをしてくれたのは、赤毛で歯のきれいな男の人だった。ひげを生やして、しわのいくつかある顔は30代半ばをすぎたくらいにみえるけど、胸元手足はとてもしっかりしていた。左腕を除いて。


「行儀の悪い海賊に捕まっていた割には元気だな。大丈夫か?怪我はないか?」
「はい、ええと、まだ、特になにも、されてません」


 まだ、と言ってから失言だと気づいた。赤毛の人が顔をしかめて「前にもあったのか」と訊いた。彼の左目の三本の傷を見ていると、不思議と胸がずきずき痛んだ。


「…二度目です。助けていただくのは」
「運のないやつか、その様子じゃ、間抜けなやつだな」


 赤毛の人の視線がゆっくりと震える兎耳にいくのを、まったくそのとおりですと思いながらぼんやり見ていた。そういえば、一度目のあれは、確かに助けてくれたことになるのだろうか?私はこんなにまぬけだっただろうか。「その、本当に、ありがとうございました。でも、その」私が抑えて言うと彼は「ああ」と胡座を組み直した。


「俺たちは人売りじゃあない。海賊ではあるけどな。ふらふらしているだけさ。お前はどこからあの船に乗ってきたんだ?なんだったら元いた場所に帰してやろう」


 




 あのとき考えていたのは、もう二度とみんなとは会えないのだろうなあ、というようなことだった。海に落ちて捕まって、今度こそ売られかけた。それなのに今、私は目の前の男の人の、言うことを、信じてしまっている。真に受けている。そう思わせる何かが彼にはあったのだ。だから、もし本当に、また船に戻ることができたら、それはもう、奇跡としか言いようがない。
 飽きるほど聞いた、あの言葉を使いたくはないけど。