06
二つのカートにそれぞれの荷物を載せ、駅内を二人は歩いていた。ハグリッドと別れる際、二人は汽車のチケットを貰った。しかし、そこには驚くことに『9と3/4番線』と書かれていた。二人は顔を見合わせ、ハグリッドに聞こうとしたが、すでに見上げた先にハグリッドはいなかった。
「クレア、9と3/4番線なんてどこにあると思う?」
「さあ……取り敢えず9番線のところへ行ってみましょう」
ハリーとクレアは取り敢えず9番線のところまで来たが、9番線の次は10番線。やはり9と3/4なんていう、微妙な数字は見当たらなかった。どうしようかと悩んでいた時、偶然よこを通り過ぎた婦人が「毎年ここはマグルで多いわね」とボヤいているのを二人は耳にした。
「「マグル?」」
ハリーとクレアは、ここ最近で聞いた言葉にお互いの顔を見て婦人の後を追った。
婦人と子供たちはある場所で立ち止まる。「パーシー、先に行って」婦人が一番上であろう息子にそう言うと、パーシーと呼ばれた子はプラットホームの9と10に向かって駆け足で歩き出した。壁にぶつかる。そう思ったが、その子は壁の中にたちまち消え去り、まるで通り過ぎたようだった。
ハリーとクレアは目を見開き、再び何度目かのお互いの顔を見合った。
「フレッド、次は貴方よ」
「違うよ、僕はジョージ」
「僕がフレッド」
「それでも僕らのママ?」
「あら、ごめんなさいね、ジョージ」
今度は一卵性の双子がカートを押した。「冗談、僕がフレッド」先程、自分をジョージだと名乗っていた双子の片割れがそう言い、次々と壁をすり抜けていく。
「すみません!」二人はどうやって9と3/4番線に向かうのか聞くため、カートを押して婦人に声をかけた。
「あの、どうやったら、あそこに……」
「9と3/4番線? 二人ともホグワーツへは初めて? うちのロンも今年からよ」
婦人はそう言って赤毛の男の子に目を向けた。
「いい? あそこに向かって真っ直ぐ進むのよ。大丈夫、怖くないわ。これが大切よ。怖かったら小走りで行くといいわ」婦人は優しく、笑顔でそう教えてくれた。「それじゃあ、レディーファーストね」ニコリとしてクレアは婦人に背中を押され、前へ出された。深呼吸をすれば、婦人の傍にいた小さな女の子に「がんばって」と元気づけられる。
覚悟をして小走りで壁に向かう。壁にぶつかる寸前で目を瞑り、再び目を開ければ、そこには汽車が止まっていて、多くの人でにぎわっていた。驚いていれば、たった今自分が出てきた壁からハリーがあらわれる。二人は9と3/4番線と書かれたプレートと『ホグワーツ行特急11時発』の文字見て、たどり着いたのだと確信した。
戦闘の二、三両はすでに生徒がいっぱいで、ハリーとクレアはどんどん奥へと進んでいく。人が多くて進むのに一苦労だ。人を掻き分け、先頭を行くハリーの後を追っていると、何かが足に引っかかり身体が大きく傾いた。
「っきゃ!?」
地面にぶつかる……!
そうと思った瞬間、体は地面にぶつかる寸前で止まった。
「っと……間一髪」
首を曲げて見上げれば、いくつか年上のハンサムな男の子が転んだ瞬間からだを支えてくれていた。その人は身体の小さいクレアを抱き上げ、傾いた身体を起こした。
「君、大丈夫? 怪我はしてない?」
「うん……あ、ありがとう」
「どういたしまして。それじゃ、気を付けるんだよ」
その人は笑顔でそう言い、足早に人ごみの中へ消えていった。
「クレア! 大丈夫?」少し先にいたハリーがクレアに気付き、足を止める。クレアは大丈夫だと笑い返してハリーの後を再び追う。
やっと人ごみを掻き分け、最後尾近くで開いているコンパートメントの席を発見した。ヘドウィグを先に入れ、列車の戸口の階段から重いトランクを押し上げようとしたが、トランクの片側さえ持ち上がらず、二人は困り果てた。トランクは二人分あるのだ。
「手伝おうか?」
振り向けば、そこには先ほど9と3/4番線に向かう時、さきに通過した赤毛の双子のどちらかがいた。
「うん、お願い」クレアが素直に頼めば、片割れは「おい、フレッド! こっちきて手伝えよ」と双子の片割れを呼んだ。双子のおかげで二つのトランクはやっと客室の隅に収まった。「ありがとう」汗だくのハリーは双子に礼を言う。
「それ、なんだい?」
双子の片割れが、前髪の隙間から覗くハリーの稲妻の傷跡を見た。すると、双子は大きく目を開いた。
「驚いたな。きみは……」
「例の子だ。君、違うかい?」
ハリーは何を聞かれるか、もうすでに分かっていた。
「なにが?」
「「ハリー・ポッターさ!」」
「ああ、うん。僕、ハリー・ポッター」
ハリーはもう、行く先々で同じことを何度も言われ、その問いかけに呆れや面倒くささが声に現れていた。クレアはその様子を苦笑しながらも見守る。双子は「驚いた……」と口をそろえ、ポカンとした様子でハリーを見つめた。
ハリーを見つめた後、双子の片割れがふとクレアに向いた。
「きみは?」双子の片割れが言う。
「え?」突然、ハリーから自分に視線が移り変わりクレアはきょとんとした。
「君だよ、ちっちゃなお姫様」もう一人の片割れ言う。
「クレア、エヴァレスト……」
双子は再度、お互いの顔を見合わせ目を丸くした。
「やっぱり、エヴァレストの子だ」
「これは驚いた……ハリー・ポッターの次にエヴァレスト家の子に会えるなんて」
ハグリッドの言う通り、ハリーほどではないが自分もよく知り渡っているらしい。だが、クレアは一つ疑問に思った。なぜ双子は「やっぱり」と口にしたのだろう。
クレアがその疑問を聞き返そうとすると、双子は汽車の外から呼ばれた声に応え、汽車の窓から飛び降りて行った。
ハリーとクレアは向き合うように座り、口を開く。
「本当にみんな、僕やクレアの事を知ってるんだね」
「私たちは自分の事、何一つ知らないのに。変な感じね、ハリー」
「まったくだよ」
二人は不安な思いもあったが、それ以上にこれから待ち受ける新しい世界とその暮らしに胸を高鳴らせ。不安を打ち消す様に笑いあった。