カウンター≒クロックワイズ | ナノ


2006.02.22 16:05:49  




 東卍を潰すために作られた、黒川イザナが率いるS62世代が集まる極悪チーム『横浜天竺』。その勢力は東卍の比ではない。おまけに卑怯な手も惜しみなく使う。ガキの喧嘩ごっこをしている東卍とは違う。その勢力に襲われた東卍の幹部たちはあっさりを潰れた。戦力も隊長も無くした東卍に士気はない。だが、あっちにはまだマイキーが居る。それを潰さない限り、天竺の勝ちは確定しない。だから、今日の抗争前に、確実にマイキーを潰す。それですべてが片付く。






「はい、これ。言われてた変装用の上着とヘルメット、あと手袋とバットね」
「お、サンキュー知沙」


 小鳥遊は紙袋に詰めたそれを取り出してひとつひとつ俺たちに渡してくる。半間は上着を受け取るとすぐに上から羽織り、自分のバイクに跨った。それを横目で見ながら俺も同じ種類の上着を羽織る。


「本当に手袋要らないの、寒いし刺青でバレない? そのバイクも派手だし」
「別に一瞬だしいいんじゃね? どうせ替え玉出頭させんだろ」
「ふうん……まあいいけど」


 俺が上着を着ている隣で半間と小鳥遊は呑気に話している。実際に関わらない小鳥遊はともかく、半間はこれからすることも知っているくせに緊張感が無い。いや、こいつにはそんなものはないか。ただ今回だけは失敗できない。これだけは確実に成し遂げなければいけない。これがキングを取るための王手になる。


「稀咲はいい感じ?」
「ああ、問題ねぇ」


 振り向いた小鳥遊に俺は視線を向けないまま頷く。ぐっと革で出来た黒い手袋を両手に嵌め、感覚を掴むように手を握っては開く。そんな俺を見つめてから小鳥遊は二人分のヘルメットを持って交互に差し出す。


「ターゲットは前から言ってある墓地にいる、いい感じにイザナが誘導してるはずよ」
「りょーかい」
「はい、稀咲」


 半間に向けられていた視線が再び俺に移り、ヘルメットとバッドを眼前に差し出された。俺はそれを見下ろし、掛けていた眼鏡を外す。ポケットに仕舞おうとすれば小鳥遊が手を差し出してきて、俺は一度小鳥遊の顔を一瞥してからその手に眼鏡を置いた。そうして受け取った両手でヘルメットを持ち直し、俺はそれを見下ろした。


「つーか、自分の手ぇ汚すなんてらしくねぇじゃん、稀咲」


 すでにヘルメットを被りバイクに跨りエンジンを吹き鳴らしていた半間が、じっとこちらに視線を向けながら言った。

 半間の言う通り、今まで俺が実際に手を下すことも手を汚したことはない。すべて駒に任せてきた。だが、この王手だけは人に任せられない。確実な勝利のために、これはどうしても必要な一手だった。


「ああ……これだけは人任せにできねぇ」


 ヘルメットを被り、俺は半間の後ろに乗るようにバイクに跨った。そうすると小鳥遊が近づいて来て、俺にバットを差し出してくる。俺はそれを受け取り、ぐっと落とさないように握り、肩に乗せるようにバットを担ぐ。


「必死なんだよ、オレも」
「あン?」


 気づいたらそんなことを呟いていた。今にも走り出そうとしていた半間はその言葉に動きを止め、不思議そうに俺を振り返る。そばに居た小鳥遊も同じような顔をしていた。


「主役になれねぇのは分かってる。それでも欲しい物は手に入れる」


 俺は道化師だ。加えて一人じゃ輝けない。主役になりたいわけじゃない。ただ、それでも、欲しい物は手に入れる。どんな手段を使ってでも。これは、そのための土台だ。

 半間はフッと笑んで前に視線を戻した。そうしてハンドルを握り、今にも走り出そうとエンジンを吹き鳴らす。それを聞き、近くに居た小鳥遊は二歩ほど下がる。


「気をつけてね。指定された場所で待ってるよ」
「ああ」


 小鳥遊はそう言って片手をあげる。それを一瞥すると、半間はバイクを走らせた。


「これで終わりだ、花垣武道」

 お前のとの決着は、これで終わりだ。





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