侍女たちに囲まれ、身支度を済ませる。
普段よりも刺繍が精密に入った美しい白を基調にした生地のドレス。ドレスや髪を飾る数々の宝石。それらの数々から、特別な仕様であるのが伺える。
お美しいですよ、と身支度を手伝う侍女たちが笑みを浮かべながら言う。
ディーアはありがとう、と朗笑した。
今日は、戴冠式だ。
正式にヒルメスが王として即位する、戴冠式。それに合わせて、婚礼式も執り行うことになった。
正式に今日、ディーアは新たな王妃となり、王となるヒルメスと結婚するのだ。
これ以上めでたいことは無いだろう。
城中も、国民たちも、新たな王と王妃に国中が祝福した。
準備が整えば、侍女たちは一例をして部屋を出ていく。
一人残された部屋で窓の外を眺めていれば、扉がノックされる。
ヒルメスだろう。妻の晴れ姿を最初に見るのは夫であるという決まりがあるのだ。
入るぞ、と一言添えてから、扉が開かれる。
部屋に訪れたヒルメスも煌びやかで豪華な正装を纏っている。この人が新たな王であり、自分の夫となる人なのだと、改めて心に刻み込んだ。
ヒルメスは、白いドレスを身にまとう美しいディーアに、見惚れていた。
はっと息を飲んで、呼吸を忘れる。夢に見た光景が、いま目の前に広がっているのだ。
「ヒルメス様」
優しい声色で、嬉しそうにディーアが名を呼ぶ。
ヒルメスは返答をする代わりに、彼女だけに見せる穏やかな笑顔を浮かべた。
目の前まで歩み寄って、そっと頬に手を添えれば、受け入れるようにディーアもその手に自分の手を添えた。
「美しいな、ディーア」
「ヒルメス様も、素敵です」
指でなぞれば、少しくすぐったそうに身をよじって、フフっと笑みを零した。
「夢を見ているようだ」
幸福を目の前に、思わずそんなことを口にした。
ずっと待ち望んでいた未来。ずっと夢に見ていた未来。それが今、目の前にあるのだ。信じられないという気持ちが出てしまう。
「夢ではありませんよ、ヒルメス様」
これを現実だと言ってくれる。
ヒルメスは「ああ、そうだな」と噛み締めるように頷いた。
「あの日の約束を、いま再びここに」
両手を握り、見つめある。
「この先も、ふたりで、平和な国を築いて行こう、ディーア」
幼いころに交わした約束を胸に、これからは二人で歩き出すのだ。
「愛している、ディーア」
「私も、ヒルメス様を愛しております」
交わした口づけは、誓いそのものだった。
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