パルス歴、三二〇年。
スーリは20となり、アルスラーンは14へとなった三年後。
スーリは増々美しい女へと成長し、アルスラーンは背も伸び声も幾分か低くなった。
自分の部屋で椅子に座り寛いでいると、駆け足で部屋に来たアルスラーンが扉を開け中へとが言ってきた。
アルスラーンの顔は稽古の後だったのか、顔に泥を付けていた。
「姉上!!」
「あら、アルスラーン。稽古は終わって?」
「はい!」
元気に答えた彼は笑顔でスーリに近寄る。
彼女は近くにあった布で、近寄ってきたアルスラーンの頬に手を添え、泥を拭った。
「ふふ、また泥も拭かずに」
「はは…」
アルスラーンははにかんで笑った。
「稽古はどう?」
「まだまだです…。しかし、前よりも上達しております!」
「よかったわね、アルスラーン」
「はい! 姉上を守るために、毎日頑張っております!」
褒められてうれしいのか、アルスラーンは年相応の笑顔を浮かべていった。
スーリもそれにつられ、優しく微笑む。
「…もうすぐ、初陣ね」
「はい…。まだ、不安ですが…。でも、私は大丈夫です!」
不安げな顔をする姉を安心させるかのようにアルスラーンは笑ったが、それでもぬぐえない不安を抱くスーリは、アルスラーンの両頬に手を添えた。
「私も、貴方と行けたらよかったのだけれど…」
「だ、ダメです!姉上は待っていてください!」
自分が女には必要ないと言われてきた剣や弓の使い方を、男たちを押しのいてまで身に着けたというのに……。
元々、アンドラゴラスが反対していたというのにそれを押しのけ、習っていたせいか今回の出陣に同行させてもらえなかった。
「…えぇ、待っているわ。だから無事でいて、アルスラーン。帰りを、待っているわ」
「…」
添えられた両手を包み込むように握り、スーリに笑いかけた。
「はい。必ず、姉上のもとに帰ります。だから、待っていてください」
「えぇ…必ず」
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