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ナルサスとエラムの声によって、アルスラーンやダリューンらはとある一室に集まった。
ナルサスは瞳を伏せ、黙って腕を組み座っている。


「それでナルサス、話とはなんだ? 姉上は呼ばなくても良いのか?」


スーリだけがいないことに疑問を持ったアルスラーンが、ナルサスに問いかける。
ナルサスはただ頷くのみで、アルスラーンは何かを悟り、そのまま引き下がった。

みな、ナルサスが口を開くのを待った。
やがてナルサスは瞳を開け、スーリから聞いた真実のみを語る。


「私は先ほど、スーリの素性を本人から聞いた」


その言葉で一同の顔つきが変わった。
此処にいる者、全員がアルスラーンとスーリに王家の血がないことを知っている。


「姉上の……?」

「はい。殿下、今から話すのは真実のみ。目をそらさず、しっかりと受け止めて頂きたい。スーリもそれを望んでいる」

「……わかった。話してくれ、ナルサス」


緊張気味に、アルスラーンは答える。
みなの顔つきを確認したナルサスは、ゆっくりと口を開いた。


「まず、殿下とスーリには一切血がつながっておりません。つまり、義姉弟です」


アルスラーンは予想していた。少しばかり俯くと、ダリューンやエラム、ファランギースが心配気に彼を見た。
再びアルスラーンが顔を上げるのを確認すると、ナルサスは続きを語った。


「スーリには、パルス王家の血が通っていない。そもそも、彼女はパルス人ではないのです」

「どういうことだ、ナルサス」


ダリューンが問いかける。
ナルサスは言葉を待つアルスラーンを見る。


「彼女は、薔の国ズィーロ公国の内親王です」


誰もが驚いた。
その真実に目を見張り、驚愕した。


「薔の国ズィーロ公国……」

「ズィーロ公国とは、マルヤムとパルスにある小国です。十年以上も前に、滅んでしまいましたが……」


ダリューンがアルスラーンにそう説明をする。
滅んだという言葉に、アルスラーンは顔をゆがめた。


「あぁ。しかし、ただの内親王ではない」


すると、ファランギースが口を開いた。


「スーリ殿が生まれた当時、王は亡くなっておられたと聞く。となると、スーリ殿は……」

「実質、王女ではなく女王様だったというわけか」


ギーヴがファランギースの言葉の続きを言う。
ナルサスはそれに頷く。

なんとか話について行っているアルスラーンは、頭を整理しながら問いかけた。


「だが、それならなぜ姉上はパルスの姫としているのだ?」

「先ほど、ダリューンが言ったようズィーロ公国は滅びましたが、滅びる前、ズィーロ公国はパルスと不平等な条約を結び、まだ保っていたのです。そこで、当時王ではなかったアンドラゴラスがスーリを人質として連れ帰った。何故ならズィーロ公国に進行したのは、パルス国だったからです」


アルスラーンは言葉を失った。
姉の、スーリの国を最終的に滅ぼしたのが自分の国だったからだ。

次に口を開いたのは、ナルサスの両隣にいたエラムとアルフリード。


「しかしナルサス様、それならなぜヒルメス殿はスーリ様を狙うのですか?」

「そうだよナルサス、あの銀仮面……スーリをやたらと狙うじゃん。自分のモノみたいにさ」


ナルサスは「あぁ」と答え、一度座りなおす。


「スーリは……ヒルメス王子の婚約者だったのだよ」

「婚約者だと!?」


思わず立ち上がってしまったダリューン。
すぐさまその言葉にギーヴが口を開く。


「あぁ、それなら納得できるな。あの色男の執着ぶりはそれか……」


地下水路でのことを思い出しながら、ギーヴはそう言った。


「だが、姉上は人質として来たのだろう? 婚約者と言う立場になれるものなのか?」


アルスラーンの疑問は最もだ。
人質として連れてきた姫を婚約者にする利益など、皆無と言っていい。


「あまり知られていなかったが、当時、近隣国でスーリは聡明で美しい姫と名高かった。現に、今のスーリは王子どもがこぞって来るほどだろう?」


ナルサスの言葉に、アルスラーンも頷いた。
そういう意味では、利用価値があったのかもしれない。


「でもさ、あの銀仮面の婚約者なら先王の娘ってなるよね? 殿下の姉にはならないよ」


アルフリードがそう聞く。


「先王やヒルメス王子が消えた後、王が娘として公表したからだ。まだ婚約者だと公表されていなかったからな。王の真意はわからんが、そういうことだ」

「では、姫様は病を持っていなかった……というわけでいいのか」


ダリューンの言葉に、ファランギースとギーヴが口を開く。


「しかし、スーリ殿は眼病を患っていると聞いたが」

「俺も、スーリ殿本人からそう聞いたが」


アルスラーンもそれにのった。
スーリは眼病だった。視力は最近低下しなかったが、昔、医者から将来失明すると聞かされていたはずだ。


「身体的な病ではなく、心の病だったわけだ」

「あぁ、なるほど」


ナルサスの答えに、ギーヴが納得する。


「つまり、スーリ殿は祖国と婚約者を失ったショックから、視力低下に陥ったというわけだ」

「あぁ。その通りだ」


ギーヴの説明にナルサスがうなずき、補足を入れる。


「ショックからスーリは記憶までも拒絶した。だが、体に何かしらしみ込んでいたのだろう。完全にその感覚が消え去っていたから、視力の低下は止まったのだ」

「なら、今の姉上は……!」

「平気です、殿下。そう陥ってしまったのは、彼女がまだ幼い子供だったため、受け止めきれなかったのです。今のスーリなら、しっかりと受け止めることができましょう」


アルスラーンは胸を撫でおろした。

これで、スーリの素性は説明した。そして、誰もが思っただろう。
スーリがヒルメスの婚約者で、彼女の祖国を滅ぼしたのがパルスなら、自分たちではなくヒルメス側に着いたほうが理屈が通ると。


「殿下」


ナルサスがアルスラーンを見る。
お互いが、お互いの瞳をしっかりと見つめた。


「私はスーリに、ある問い掛けをしました」

「それは……」

「今後、ヒルメス王子の元へ着くか、アルスラーン殿下の元へ着くか……問いかけました」


アルスラーンは息を吐く。
大切な姉の、スーリの選択。たとえどの選択をしても、受け止めなければいけない。


「スーリは言いました」


ナルサスの言葉を待つ。
それは、此処にいる全員が同じ事。


「殿下、貴方に――王となってほしいと」


アルスラーンはスーリの答えに、目を見開いた。


「で、では、姉上は……」


ナルサスは瞳を閉じ、頷いた。――それは肯定。
スーリが今まで通り、此処にいるという事。


「殿下」


ダリューンがよかったと声をかける。
アルスラーンは嬉しいという、喜びの感情を持ったが、正直に喜んでいいのか不安にもなった。


「話は以上だ」


ナルサスの言葉を聞き終えると、立ち上がったのはアルスラーン。


「姉上のところへ行ってくる」


エラムが止めに入ろうとするが、それをする前にアルスラーンは出て行って仕舞った。
ナルサスにエラムは目を向けるが、何も言わないところからいいのだと思い、伸ばしていた手を下ろした。


「複雑だね……」


ふと、アルフリードが零した。
誰もがそう思った。


「今日は、星が見えないな」


ギーヴが空を見上げる。
どんよりとした空は、まるでスーリの心を表すようだ。雨が降らないのは、きっと彼女が隠したいから。


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